先日、幕張メッセで開かれていた国際食品展・FOODEXに出かけてきました。
中国茶や台湾茶の状況については、別のブログで記載しています(前編・中編・後編)ので、ここではまたちょっと別の視点から考えてみたいと思います。
パッケージの工夫が増えた
今回、会場をぐるっと回って気づいたことは、パッケージに気を遣った商品が増えたな、ということです。
材質やイラスト、デザインなどに特徴のあるものが多く、スーパーの食品売り場というよりも雑貨屋さんに置いても映えるような商品も多く並んでいました。
これまでは市販の袋にラベルを貼っただけ、というものが多かったので、かなり進歩していると感じます。
パッケージも商品のうちであるという意識が強まり、コストもかけるようになってきたのだと思います。
ただ、パッケージのユニークさが、商品の特質やこだわりを表現しているかどうか?という点では、少し疑問に感じるところもありました。
パッケージをデザインした、デザイナーのこだわりは感じます。
が、お茶の作り手側が消費者に何を訴求したいのか、という点については、今ひとつ分からない、と感じるものも多くありました。
新奇性という部分では、一過性の注目を集めることはあると思いますし、それで売れ行きも良くなることはあるでしょう。
しかし、それだけで良いのだろうか・・・と思いました。
”共通言語”に乏しい
そもそも、お茶についての何かを語ろうとするとき、生産・流通側と消費者側の間に大きなギャップを感じるのは、共有してる語彙、もっと言うならば”共通言語”が非常に少ない、ということです。
日本のお茶でいうならば、一般的な消費者が認知している言葉というのは、
”煎茶”、”玉露”、”ほうじ茶”、”玄米茶”というお茶の種類。
ほぼ単一の”やぶきた”という品種名。
色が濃いらしいという”深蒸し”という製法の名前。
”静岡”、”宇治”、”鹿児島”といった大きな産地の名前。
あとは”有機”とか”無農薬”という、なんとなくイメージの良さそうな言葉。
ぐらいではないかと思います。
中国茶であれば、もっと語彙は少なく、
”烏龍茶”、“プーアル茶”、”ジャスミン茶”、”黒烏龍茶”、”凍頂烏龍茶”、”東方美人”という商品名。
場合によっては、”鉄観音”なんていう品種をたまに知っているかな、程度です。
味わいの表現についても、お茶については、
”渋い”、”苦い”、”甘い”、”うまみがある”、”濃い”、”香ばしい”
ぐらいではないかと思います。
表現の語彙も非常に乏しいのです。
このくらいの語彙しかないのですから、消費者が商品を選択する基準は自ずと限られます。
上記のような”知っているキーワード”でなんとなくイメージするか、価格で選ぶしかありません。
日本茶であれば、年輩の方ほど「100g1000円」という目安で選ぶ傾向が強いように思います。
しかし、若者世代では、この相場観をあまり知りませんので、ますます選択基準がありません。
いきおい、「パッケージで選ぶ」か「特売品を選ぶ」か「CMで見た商品を買う」か「分からないor面倒なので買わない」という選択肢になります。
この意味においては、パッケージに力を入れるのは、十分に納得のできる方策です。
その一方で、もっと”共通言語”を増やす努力も必要ではないか、と感じます。
”共通用語”を増やすには
共通用語を増やすためには、いくつか方法があります。
1.専門的な知識を体系化し、教育する
2.キーワードを1つか2つ選定し、マスメディア・テレビコマーシャルを使って徹底的に周知する
3.一般の人でも理解できる用語で説明する
などです。
1については、具体的な例を挙げれば、わかりやすいお茶の教科書のような書籍を出版したり、何らかの資格だったり検定などを実施することです。
一部の人に詳しい知識を伝えるのには向きますし、情報を伝えるための核となる人材を育成するのには役に立つでしょう。
が、世間的に周知されるのには時間がかかりますし、即効性はあまり期待できません。
続けていく必要はあることですが、部分的にテレビなどで採りあげてもらうなどの方策を戦略的に進める必要もあると思います。
2については、大手企業の商品などに採用されることで、実現は可能です。
よく知られるようになった”商品名”は多くの場合、この方法によって広まったものです。
しかし、かなりコストのかかる方法でもあるので、費用対効果(簡単に言えば、売りたい商品が売れること)が悪ければ、継続は難しいでしょう。
また、そのキーワードのみが知られることになりますので、それが消費者の商品選択の役に立つかは別問題です。
例えば、一時期、テレビコマーシャルなどで、”パンジェンシー”という言葉が知られるようになりました。
が、それが消費者との間で、情報を伝えるのに役に立ったという話は、あまり聞きません。
3については、すぐにでも実現可能な部分とそうでない部分があります。
たとえば、特徴的なお茶の香りなどを、一般の人にも分かりやすい形で表現することです。
静7132のように「桜あるいは桜餅の香り」あるいは金萱茶のように「ミルクのような香り」と言われれば、消費者の方も比較的イメージしやすいでしょう。
こうした言葉を使用できるところは積極的に使う、というのは一つの手だと思います。
ただ、お茶の香りなどはかなり繊細なものが多いため、化学的な香料などに馴らされている人にとっては、感じにくい場合もあります。
そこを逆手に取られて、香料を振りかけた金萱茶などが観光客専門の店では販売され、そういう強い香りの方が「本物だ!」と感じられてしまうケースもあり、なかなか難しい面もあります。
また、そもそも、それで表現できない一般的な香りのお茶をどう表現するか、は引き続き問題として残ります。
さらに、表現が店によってマチマチとなりすぎるのも、あまり望ましいことではありません。
ある程度のボリュームで情報を流そうと思えば、然るべき業界団体などが表現のガイドラインを整備し普及に努める、などの方策も必要になると思います。
いずれにしても、生産・流通側と消費者の間の共通言語を増やすという観点は、お茶の世界を豊かにしていく上では必要不可欠だと感じます。
嗜好品飲料の中には、ワインなど言語表現面で、かなり進んだ飲料もあります。
こうした別分野の専門家とされる方たちの手も借りながら、この部分を強化していくことは、お茶の世界でも、おそらく必須になるのでは無いかと感じます。
次回は3月31日の更新を予定しています。
※20日が祝日のため、今回の更新予定が1日ずれましたことをお詫び申しあげます。