第47回:”毎日飲んでもらう”だけが正解ではない

たまに聞かれる質問があります。

「やっぱり、毎日お茶を飲んでらっしゃるんですよね?」

というものです。

当然、多くの方は「イエス」という答えを期待するのでしょうが・・・

「いえ。お茶を飲まない日も結構多いですよ。外ではコーヒーぐらいしか飲めないときも多いですし」

と、ナチュラルにお答えすると、大いに驚かれることがあります。

茶館やお店を経営しているのであれば、お茶を飲む環境が整っているので、それも可能でしょう。
が、私の場合は、あいにく、あちこち出歩いていることが多いので、それができません。
「毎朝、出かける前にお茶を淹れて持っていけば良いではないか」というのは、ごもっともなのですが・・・

 

「毎日、急須で淹れたお茶を」は、現実的か?

茶業者の方は、「毎日、急須で淹れたお茶を飲みましょう」とよく言われますが、個人的には「大変難しいことを言っている・・・」と感じます。

現代の勤め人のライフサイクルを考えてみましょう。

朝は、多くの方が非常に忙しない時間を過ごします。
起床してから、身支度を調え、朝食を食べ、出かける。

朝食をきちんと取っているのであれば、そこでお茶が出てくる・・・というのは、イメージ可能です。
が、その時間すら惜しい、というスタイルになっている人もいます。

たとえば、朝食は出勤途中のコンビニに寄って買い、オフィスに着いてから、メールチェックしながら食べる。
こうなると、朝のお茶はちょっと難しそうです。飲めても、せいぜいペットボトルかチルド飲料でしょう。

会社の近くのコーヒーショップで食べるという人なら、そこでお茶を選択するのは可能かもしれません。
が、多くの店ではコーヒーには力を入れていても、お茶は大抵こだわりのないティーバッグのお茶です。
美味しいお茶を知っている人ほど、積極的に注文する理由が見つかりません。

勤務時間中は、お茶を自由に淹れられるような職場環境であれば良いのですが、そういう自由のある職場は決して多いわけではありません。
そうなると、やはりペットボトルぐらいしか飲めません。

外勤の多い人にとっては、さらに難しくなります。
休憩がてらにカフェに立ち寄ったとしても、お茶のラインナップは往々にして貧弱です。
美味しいお茶を知っている人ほど、積極的に選択しようという気にならなくても仕方ありません。

昼食時。
和食のお店に入れば、ここでお茶が出てくることはあるかもしれません。
が、珈琲と紅茶、どちらにしますか?と聞かれた場合は、これまたお茶のラインナップは大体貧弱なので、積極的にお茶を選択する理由が見あたりません。

夕食時。
自宅でとるなら、お茶を飲むことも可能です。
が、出先でとるとなると、昼食の時と同じパターンに陥ります。

帰宅後。
ゆっくりとお茶を飲んで・・・となれば理想です。
が、帰宅が深夜になるような激務であり、翌日も朝早く出社しなければ、という生活をこなしていたら、早く寝ることを優先するでしょう。
夜遅くにカフェインを取ってしまって、寝付けなくなることを不安に思う人もいるでしょう。
飲めるとしたら、「たまたま早く帰宅できて、時間がある」「翌日は休みである」というようなタイミングぐらいです。

このように、実際の生活シーンを考えてみると、なかなかお茶が出てきそうなタイミングがありません。
どう考えても、ペットボトルの茶飲料ぐらいしか飲む機会が無いのです。
あとは、たまたま外出時に美味しいお茶が出てくるようなお店でもあれば良いのですが、そういうお店は、なかなか稀有な存在です。

茶業者の方は、「自分の職場にお茶を淹れられる環境がある」「自宅で飲むのは普通」だと思っており、習慣化しています。
自分ができることだから難しいことでは無い、と感じるのかもしれません。

が、普通の勤め人に「毎日、急須で淹れたお茶を飲め」というのは、なかなかの無理難題なのです。
「急須で淹れたお茶を飲んで、一家団欒の時間を」というのは、理想論ではあるけれども、全く現実的では無いのです。
説教臭く感じるという人も多いことでしょう。

集中的に色々飲むことは可能

「では、一体、あなたはいつお茶を飲んでいるのか?」という疑問が出てくると思います。

答えは明快で、時間があるときに色々なお茶をまとめて飲む、のです。

比較しながら飲んでいくこともありますし、最初は緑茶から初めて、青めの烏龍茶を飲み、火入れをしたものを挟んで、また烏龍茶、紅茶へ・・・というように飲むこともあります。
色々な味わいのお茶を、比べながら同時に飲んだり、飲み進めて行って気分の向く方に、様々なお茶を飲んでいきます。

あるいは、お茶の好きな方同士で集まるようなお茶会で飲みます。
そういう場では、お茶をシェアし合って飲みますので、1人で飲むより、より多くの種類のお茶を飲んでいくことができます。

このような飲み方をしていると、毎日飲んでいるわけではなくとも、かなりの量の茶葉を1ヶ月に消費しています。
仮に毎日5gずつ飲んだとしたら、1ヶ月の茶の消費量は150gです。
おそらく、消費量自体はそれと遜色ないか、それ以上に飲んでいると思います。
毎日飲まなくても、わりと大口の消費者になるのです。

 

伝統的な茶業界の考え方では掬い上げにくい

このような消費スタイルは、お茶を日用品として飲んでいるのではなく、嗜好品として飲んでいるからこそのことです。

毎日飲むのであれば、決まった銘柄のお茶を飲むことになるでしょうし、その価格は毎日のものだからできるだけ低い価格に抑えたいと思うことでしょう。
茶にまつわる情報も多くは必要ありませんし、品質と価格が安定していることこそが消費者のニーズに合致します。

ここから導き出される、望ましい茶業界の姿は、

・決まった銘柄を定期的に買ってもらう(単一銘柄のリピート購入。月1回程度で使い切れる量が最低単位)
・毎日飲めるようなお茶を毎日飲める価格で(癖の無い品質。機械化など徹底した合理化。薄利多売)

というものでした。
そして、現在の茶業界はこれに高度に適応した仕組みになっていると思います。

 

が、多品種少量を時々飲むという消費スタイルになると、どうでしょうか。

画一的なお茶では、消費者の興味を惹くことはできません。
より個性があること、(様々な意味での)情報量が多いことのほうが、飲んでみたいお茶になります。
さらに言うならば、価格は多少高くても、品質が相応に高ければ、あまり気になりません。
時々のご褒美として飲むものであれば、多少のプレミアム感は、むしろ好ましい特徴になります。

既存の仕組みの延長線上で考え、”毎日飲んでもらうお茶”ばかりを意識していると、このような消費層は取り込めないことでしょう。

嗜好品飲料が、ほぼ茶しか無かった時代で、画一的な職場・家庭環境の時代だったのなら、先に挙げたような戦略はきちんと適合したのでしょう。
しかし、それは過去の成功要因であって、現在そして未来の成功要因ではありません。

現在では様々な嗜好品飲料の選択肢があり、ライフスタイルも多様化しています。
そのような環境下では、この戦略は既に時代遅れになっており、仕組みも陳腐化していると考えるべきでしょう。

新しいスタイルの消費に適応しつつ、きちんと持続可能な収益を上げられるようなビジネスモデル。
そうしたものを開発できない限り、茶業界の苦境はいつまでも続くことだけは間違いありません。

 

次回は、7月2日の更新を予定しています。

 

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