第67回:中国の「茶旅」の現状報告(1)峨眉雪芽茶業

中国では、茶産地を巡る「茶旅」がブーム

先週、四川省に出かけてきました。

今回は成都、峨眉山、雅安の3都市を駆け足で回る5日間のスケジュールで、総勢14名のツアーでした。
いつもは行き当たりばったりの旅なのですが、このような大人数ということもあって、事前に地元の大手茶業者にアポイントを取り、訪問する形式となりました。

このような茶産地を巡る旅は、中国でもブームになっており、「茶旅」と呼ばれます。
今回の訪問中も、雅安市では上海からの茶旅のグループと同じ宿泊先になり、翌日、同じ茶工場を見学するなど、あちこちで茶旅の一団とすれ違っています。

中国において、茶業は農村の収入拡大に繋がるとして、政府も積極的に支援を行っています。
宿泊業、飲食業などへの波及効果も高い「茶旅」も、その流れの中で、様々な支援策を受けています。
そのせいか、今までは見学は一切お断りであった工場も、見学者用の建物や見学コースの建設を急ピッチで行っていました。
これは以前では考えられないことで、地元政府から積極的に観光客の受け入れを行うよう指示されているようです。

今回から3回に分けて、そんな中国の「茶旅」の様子を、ケーススタディとしてご紹介したいと思います。

まずは、四川省峨眉山市の峨眉雪芽茶業の様子をご紹介したいと思います。

 

峨眉雪芽茶業

世界自然遺産と文化遺産の複合遺産となっている峨眉山。
峨眉雪芽茶業は、その保護地域の中にある、大手の茶業者です。
同社のキャッチコピーは、「一山一茶、峨眉雪芽」であり、このコピーは広く一般にも知られているものです。

峨眉雪芽は、唐代には峨眉白芽、峨眉雪茗の名でも知られた歴史的名茶です。
同社は海抜800~1500mほどの高山で生産されるこのお茶を看板ブランドに、ジャスミン茶(峨香雪)、紅茶(金峨香)なども生産しています。

今回は峨眉山の風景区内にある同社の工場を訪問しました。

生産ラインの見学

訪問した工場は、周囲を有機茶園に囲まれており、非常に真新しくスタイリッシュな建物です。
訪問すると、まずは入口のエントランスのところで2分ほどのプロモーションビデオを視聴。
そのあと、実際の生産に使用されている生産ラインの見学を行います。
テーマパークのアトラクションのように、専属のガイドの方が案内してくれます。

攤放槽

マイクロ波殺青機

工場の生産ラインは、マイクロ波殺青機(微波殺青機)など、最新鋭の機材が投入されており、非常に清潔で整頓が行き届いています。
日本製の機械も導入されており、その点の信頼性の高さなども解説されました。

中国の消費者も、生活水準の向上から、特に都市住民を中心に、衛生面に大変厳しい方が多くなってきています。
そうした方は、「地方の工場は衛生管理が不安」という漠然としたイメージを持っていることがあります。
それを払拭するのが、このオープンスタイルの生産ラインの見学をさせることなのだと思います。

きちんと手入れの行き届いた作業着を着た少数精鋭のスタッフが、工場を動かしている様を見ることで、安心安全をアピールする狙いがあります。

見学通路の生産ラインの反対側には、いくつも印象的な写真・キーワードを用いたパネルが設置されています。
それを見せながら、産地の環境がいかに優れているのか、品質への取り組み、これまでの受賞経歴など、ブランドの強みを訴求しています。

四川のお茶の中の”ボルドー”

茶摘み体験と製茶実演

一通り見終わった後で、お願いしておいた茶摘み体験と製茶実演を見学しました。
茶摘みは同工場の敷地内にある、こちらの有機茶園で行いました。

有機茶園という言葉の通りで、茶園の中には蜘蛛や虫などもおり、確かに有機栽培が行われていることを感じます。
この茶園の区画は、一般の茶摘み体験などにも使用されているようで、芽はまばらに出ている状態で、それを一芽一葉~二葉程度で摘んでいきます。
これを参加者に30分ぐらい摘んでもらって、その茶葉を用いて製茶体験をする、とのことでした。

きちんと茶摘みを基準に合わせて摘もうとすると、なかなか捗りません。
かなり頑張って摘んでいるつもりでも、籠の中に入っている茶葉の量は寂しいものです。

このような茶摘みの体験をすると、何気なく飲んでいるお茶が、いかに大変な茶摘みの労働の上に成り立っているか痛感します。
「こんなに手間がかかるものならば、高いのも仕方が無いね・・・」と自然と思うようになります。まさに思うつぼです。

摘み終わった茶葉を使って、同社のスタッフの方が製茶の実演をしてくれます。

全て手炒りで殺青、揉捻、乾燥の工程を見せてくれます。
製茶中の茶葉の状態なども触って確認できるので、参加者のテンションは大変上がります。
ここで製茶したお茶は、この後、乾燥まできっちりと終わらせて、お土産として持たせてくれます。

 

販売・試飲コーナーはリゾートホテルのよう

当然、この本社には販売コーナーも設置されています。
同社の製品のパッケージも洗練されているのですが、売場や試飲スペースの雰囲気も雑多なイメージのお茶屋とは一線を画しています。

 

まるで高原のリゾートホテルのティールームのような趣です。

お茶は農産品ということで、ややもすると野暮ったくなってしまうものです。
が、ここの工場は建物から、全てのパネル、掲示物、パンフレットに至るまで、全てが一貫したテーマをもってデザインされています。
中国風の言い方をすれば、とにかく「文化程度が高い」のです。

もちろん、試飲をするグラスもかなり上質なグラスで、峨眉雪芽の文字が刻まれています。

 

全てがデザインされていることに驚き、中国における茶業者の「ブランド化」というのは、遂にここまで来たか・・・と感じました。
おそらく、このような体験をここで行えば、一気にこのブランドのファンになってしまうことでしょう。

販売されているお茶は決して安くは無いのですが、一連の体験の後では、値段の高さが気にならなくなります。
パッケージも3gや4gといった小分けの袋が25袋ずつ箱に入っている、のように1斤あたりのような表示をしていないところも上手だと思いました。
「茶価というのは、こうして上げるのだ」という、一つの見本だと思います。

親会社が旅行会社

ここまで洗練された茶業者というのはなかなか珍しい・・・と思います。

実は、それもそのはずで、この会社の親会社は峨眉山旅游股份有限公司という旅行会社です。
成都には、峨眉雪芽大酒店というホテルも持っており、観光客の喜ぶことはよく知り尽くしている会社なのです。

「体験を通じてブランド価値を高める」ということをかなり意識して行っている様子は端々に感じられます。

ここまでの水準になると、一人のデザイナーや社長の思いつきレベルでは実現できません。
チームとしてブランドをどう見せるか?を徹底的に考え抜いて、それを1つ1つのデザインに落とし込んでいるという感覚が伝わってきます。
投資ももちろんですが、そのために膨大な時間と人員を投入していることでしょう。

パッケージだけ、売場の作り方だけ、生産ラインの見せ方だけ、など単発で真似は出来るのかもしれません。
が、全てを一つの流れでデザインをするというのは、そう簡単には真似が出来ません。
同社の強みというのは、おそらくその全体のブランドイメージのパッケージ化にあるのだと思います。

 

日本でも、インバウンドの観光客向けに茶業の現場を見せようという動きが出て来ています。
が、中国の茶業者がどのくらいの水準の体験を提供しているのか知らなければ、中国人観光客には全く満足してもらえない可能性もあります。
現地の茶旅の視察を行われることをお薦めしたいと思います。百聞は一見にしかずです。

 

次回は4月10日の更新を予定しています。

 

関連記事

  1. 第81回:インバウンド消費への対応力

  2. 第43回:西湖龍井茶に見る、価格の理由と相場観

  3. 第100回:本格化する福建美人茶の生産

  4. 第57回:中国における”台湾烏龍茶”から考える

  5. 第83回:お茶の「資格」についての考察

  6. 第134回:「茶旅」の中国人観光客を日本に誘致できるか?佐賀で考えてみ…

無料メルマガ登録(月1回配信)