第75回:流れは茶藝館からお茶カフェへ

台湾に旅行へ行く方から、よく聞かれることの1つに「お薦めの茶藝館はありませんか?」というものがあります。
この回答は、最近、なかなか厳しいものになってきています。
というよりも、「台湾でお茶が飲める店」=「茶藝館」というイメージは、そろそろ卒業した方が良いのではないか、と感じています。

大型茶藝館は絶滅危惧種

日本で中国茶ブームがあったのは、2000年前後のこと。
このころは、中庭に池があるような庭園形の大型茶館が台湾でブームになっていました。
そのため、日本からの取材なども、この手の店を挙って取材し、結果として日本での「台湾でお茶を飲める店=茶藝館」のイメージが出来上がったような気がします。

しかし、この大型茶藝館ブーム、実は台湾でもそれほど長くは続いていません。
ブームの火付け役だった耕読園は経営破綻し、フランチャイズの一部が独立したり、一部の店が残るだけになってしまいました。

その理由は、大型茶藝館というビジネスモデルの難しさです。

まず、投資金額が大きすぎて、その回収があまりにも難しいこと。
10年単位の投資回収というのは、いまの変化の激しい時代では現実的ではありませんでした。

そもそも、お客さんが長居する=客席の回転率が悪い店であるため、一定の売上を確保するには、高単価の店にせざるを得ません。
しかし、台湾の街の中には数十元で満腹になるような小吃店が多数あり、台湾の外食業界を激戦区です。
冷静に考えてみれば、そのような店をビジネスとして成立させるのは、かなり困難なチャレンジだったのだろうと思います。

実際、この伝統的なスタイルの茶藝館で現在も残っているのは、

「賃料の安い地方都市」
「観光客などが多く訪れ、ハレの日の需要が期待できる観光地」
「ブーム初期に開業して、既に減価償却の回収が終わっている店」
「茶館以外に副業もしくは収益の柱がある(茶藝教室、ギャラリーなど)」

のいずれか、もしくは複数に当てはまる店がほとんどです。
そして店舗の規模も、往時に比べれば、かなり小さな店舗が主体になっています。
大型茶藝館は既に市場から淘汰されたのです。

若者は茶藝館を忌避し、ドリンクスタンドへ

茶藝館低迷のもう1つの理由として、台湾の若者の好みにマッチしなかった、ことも挙げられます。
多くの茶器を使いこなしたり、重たすぎる蘊蓄や重厚すぎる雰囲気が、忌避されたのです。

何でもそうだと思いますが、自分たちより上の世代が支持したものに対して、その下の世代が同じスタイルをすんなり受け入れることは少ないものです。
日本の居酒屋ブームの推移をイメージすると、分かりやすいかもしれません。
ざっと挙げると、赤ちょうちん、つぼ八のような大衆チェーン居酒屋、個室居酒屋、立ち飲み・・・と移り変わってきています。
同じ世代の人たちが、ライフスタイルの変化により別の店を求めるということもありますが、上の世代が好んだものを下の世代が敢えて避けるということも往々にして起こります。
外食の業界は、特にこのようなことが起こりやすいので、流行り廃りのスパンが短いわけです。

話を元に戻します。
台湾でも、日本同様「若者のお茶離れ」と呼ばれてしまいそうなのですが、それでも若者、お茶はそれなりにカジュアルな方法で飲んでいます。
「お茶をよりカジュアルに」ということで行き着いた先が、近年、隆盛を極めているドリンクスタンド(茶飲料店)です。
あるいはコンビニなどで手軽に入手できるペットボトルのお茶です。

伝統的な茶業者の方からは、「茶飲料など、あんなのはお茶ではない」という苦言は聞こえてきますが、どういう形であれ、こうした茶飲料が若者のお茶からの消費離れを食い止めていることは事実です。
とはいえ、やはりお茶そのものの魅力は、やや薄まってしまっていることは否定できません。

重たすぎない、若者向けのライトなお茶カフェ

しかし、最近はもう1つの動きがあります。
それがカジュアルなカフェ感覚で本格的な台湾茶を楽しめる店です。

近年注目の富錦街地区にある開門茶堂

外観などは、オシャレなカフェという印象なのですが、提供されるものは、こだわり抜いて選んだ台湾茶。
提供方法は急須を使用するものの、聞香杯などは使用せず、急須・茶海・茶杯のミニマムな茶器で飲めるようになっています。

台東紅烏龍

また、ショッピングセンターの中にも同じような台湾茶を専門とするカフェが展開されています。

大直にあるATT4Rechargeにある春點茶響の新店

店で製造する冷たいお茶の販売も

最近増えつつある、こうした店に共通しているのは、お茶そのものについてのこだわりを店主が持っており、茶葉の品質に妥協していないことです。
両店のオーナーは、いずれも若いオーナーですが、茶については科学的かつ専門的にきちんと学んでいる方々です。
その上で、伝統的な台湾のお茶をどうにかして広く若い世代に知ってもらいたい、ということから、いまの若者に合った形にアレンジをした店作りを行っています。

資本面の制約などから、こうした動きはまだまだ小さなものではありますが、少しずつ若者の支持を得てきているようです。

 

次回は7月10日の更新を予定しています。

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