第85回:タピオカ店が増えたビジネス的な理由と今後

あまり触れないで来た話題を少し。

猛烈な勢いで増えるタピオカ店

日本でもタピオカドリンクを出す飲料店(ドリンクスタンド)が猛烈な勢いで増えています。
台湾の大手チェーンが、日本の有力企業と組んで仕掛ける出店攻勢はもちろんのこと、今や住宅地の駅のような場所にも小規模チェーンや個人店の出店が相次いでいます。

私の身近でもその勢いを象徴するような例がありました。

東京のセミナー会場近くの東日本橋駅。
伝統的に繊維問屋などがあるオフィス街立地です。

この駅前には、中華料理店が2店舗ありました。
料金は手頃で、味もそこまで悪く無かったのですが、そもそも物件の形状が飲食向きでないからか、落ち着ける雰囲気ではありません。
じきに閉店し、看板が掛け替えられ、他の飲食店になりましたが、どんなお店が入っても、どうも商売は上手く行っていないようでした。

その2店舗が紆余曲折を経て、今では1店舗はタピオカ専門店に。
もう1店舗も中華料理店は続けながらも、タピオカドリンクの看板を大きく出すようになりました。

「こんな駅でも、タピオカか・・・」というのが正直な感想でしたが・・・
そのような俄普請の店でも、たまに行列ができていることがあるので、昨今のタピオカブームには驚くばかりです。

こうした勢いを大手の外食チェーンは放っておく訳がありません。
ドトールコーヒーなどの大手コーヒーチェーンやミスタードーナツなどの大手ファーストフードチェーンでもタピオカメニューが導入されています。

さすがにここまで広がってしまうと、そろそろブームも曲がり角ではないかと思います。
外食業界におけるブームは、せいぜい3年~5年程度なので。

 

ビジネスユニットとしての優秀さ

「タピオカ店が、なぜこのように増えたのか?」という話になると、「インスタ映えするから」「台湾ブームだから」等々の理由が挙げられます。

が、飲食業界のフランチャイズビジネスなどを扱ってきた私の目から見ると、これらは店が増えた理由にはなりません。

店が増えた理由は、どう考えても「ビジネスユニットとして優秀だったから」ということに尽きます。
「商売のパッケージとして、非常に取り組みやすく、始めやすい」から、新規参入組が多数殺到したというところだと思います。

商売としての取り組み容易性で見るべき点としては、まず「出店立地の確保が比較的容易であること」です。
ドリンクスタンドの形態であれば座席を確保する必要がありませんから、少ない店舗面積でも開業が可能です。
店舗面積が小さければ、店舗保証金などが高額な一等立地でも保証金負担は少額で済みますし、内外装の費用も小さく抑えられます。

さらに「人材採用・育成のハードルが低いこと」です。
今、外食業界では人材の採用が非常に難しいのですが、タピオカ飲料店の場合は、旬の業態であることと比較的作業が楽なイメージもあることから、たとえば油でベタベタになりがちな焼き肉店や食堂などに比べれば、採用難易度は低くなります。
店舗作業もドリンクのみ、あるいはスイーツ程度のみの提供であれば比較的シンプルですから、人材育成にかかる時間や手間が削減されます。
アルバイトの移り変わりが激しい傾向にある昨今では、このような業種は稀少です。

もっとも、このような取り組み容易な商売であったとしても、販売が不振であれば、当然店としては成り立ちません。
その点において、今のような「どこの店にも大行列」といったブームの時期であれば、売上の見込みが立ちやすく、出店にゴーサインを出しやすいのではないかと思います。

 

単価の高さ×無客席の妙

売上の側面から見ると、日本におけるタピオカ店の成功要因は、単価設定にあるように感じます。

多くの店では、タピオカミルクティーを1杯500~600円で販売していますが、この価格帯が絶妙だったと思います。
この価格帯が維持されているからこそ、今のタピオカ店のビジネスユニットが上手く機能しているのです。

普段からドトールコーヒーなどの比較的低価格なコーヒーチェーンのイメージで見ると、お茶がこの値段というのは、かなりの高単価に感じられます。
が、スターバックスコーヒーなどがフラペチーノといった商品で切り拓いた”デザートドリンク”の価格帯で考えると、この価格は適切な値付けのように感じられます。

タピオカ店にとっては、この値付けが妥当と消費者に感じてもらえているうちは、非常に競争を高く維持できます。
なぜなら、スターバックスはサードプレイス(自宅でも職場でも無い第三の場所)を提供するという観点から、多くの店ではイートインスペースを設けていて、長時間の滞在も許容しています(滞留時間が長い=客席回転率が悪い)。
一方、多くのタピオカ店は、同程度の代金をいただいていながら、場所の提供をしていないわけです。
客席スペースを確保する分の賃料、内装費用、接客コストなどが省けるわけですから、売上が及ばなかったとしても、スターバックスより収益性は高いことになります。

原価についても、同じことが言えます。
まず、お茶は比較的安価な南洋の紅茶だったり、四季春などの機械摘み・量産品の烏龍茶を使用していますから、コストは控え目です。
たとえ、いささか茶葉の質が悪かったとしても、ミルクと砂糖を多めに加えてしまえば、一般の人には分からないでしょう。
肝心のタピオカも、現在は需給が逼迫しているとはいえ、さほどコストのかかる原材料ではありません。

仮に1杯を500円程度で販売したとしても、押さえようと思えば、食材原価は50円。10%程度。
包材などの諸々のコストを含めても、原価は20%以下に収まると思います。
もちろん、茶葉にこだわったり、ミルクにこだわったりすれば、もっと高くなるので、そのあたりは経営者の姿勢次第です(今はブームだけに悪質な業者もいるでしょうから、玉石混淆だと思います)。

一般的な飲食店の原価率は、蕎麦屋などの比較的低いものでも30%程度、回転寿司などでは50%近くになりますから、それと比べると、いかに収益性が高いかが分かります。
もっとも、人件費率は高くなるのですが、店舗面積の小ささと初期投資が少ないことによる減価償却費の小ささを考えると、それ以外のコストはあまり大きくありません。
当然、ビジネスとしてみると手残りの部分が大きくなるわけです。
「ビジネスユニットとして優秀」というのは、まさにこの点を指しています。

もっとも、先行しているチェーンは、こうした収益をパッケージデザインや店舗ロゴなどのデザイン面に再投資しています。
そうすることで、日本の消費者が抱いている「タピオカミルクティーはクール」というイメージ作りに成功しているわけです。
何も無いところから、勝手にイメージができたわけでは無く、先行業者がきちんとした収益を上げ、それをしかるべき形で投資を行い続けたからこそ、今のブームになっているわけです。
この点における先駆者の苦労はきちんと評価しなければならないところだと思います。

このように考えると、先行者の苦労をすることも無く、今の価格帯での販売が維持できるのであれば、収益が出て当然なのです。
売上が多少落ちたとしても、食材ロスも比較的少ない業種ですから、再投資を絞り込んでしまえば、持ち前の収益性の高さでどうにかやっていけるだけの収益は確保できるわけです。
そこまで考えると、出店の決断をする経営者が多いのも分かります。

 

飽和したときどうなるか?

とはいえ、さすがに巷にタピオカが溢れるようになると、初期のブームを牽引してきた感度の高い消費者は飽きてきてしまいます。

「タピオカの次に何が流行るか」というのが、今の関心事になりつつありますが、何が当たるかを分析することは容易ではありません。
茶業関係者とすれば、「お茶のブームがこのまま続いて欲しい。できればストレートなお茶の世界に目が向いてくれないだろうか」と思うかもしれませんが、それはおそらく願望でしかありません。
お茶以外のものが流行ってしまう可能性も否定できません。

マーケットが成長期を経て、飽和から衰退へ向かう過程では、事業者によって、さまざまな取り組みがなされます。
大手チェーンは、おそらく得た収益をブランディングを強化する方向に投資して、ますます基盤を固めていく方向に向かうと思います。
マーケティング予算を積み増していきますので、中小事業者がなかなか歯が立たない業界にシフトしていく可能性があります。
ハンバーガーやドーナツなども出たての頃は、小規模なチェーンが多数ありましたが、結局、大手に寡占化していった状況をイメージしていただくと分かりやすいと思います。

個人店や小規模チェーンなどの中小事業者の対策として、まず考えられるのは、店舗の大型化・客席の設置です。
しかし、食事メニューなどの他の収益源が投下されなければ、この施策は収益性を引き下げることに繋がります。
顧客満足度の若干の向上には繋がるかもしれませんが、よほどヒットする副商材を見つけない限り、売上を向上させる効果は限定的でしょう。

次に単価の引き下げを行う業者も出てくるかもしれません。いわゆるディスカウント戦略です。
この方向性は、せっかく得られていた高単価を放棄する戦略です。
古典的な経済学であれば、「需要が下がれば、価格を値下げして需要を喚起する」という話になるのですが、実際にはそうは上手く行かないと思われます。

仮に一般的なコーヒーチェーンのような300円前後の単価に下げたとしたら、今度はこの価格帯での熾烈な競争に巻き込まれます。
その競争は大手チェーン同士が争う厳しい環境です。小規模事業者が勝ち残るにはあまりにも厳しいマーケットだと思います。
実際、街の喫茶店がことごとく淘汰されてしまっていることがその何よりの証明です。
時々、「ドトールのような感覚でお茶を飲める店をやりたい」と相談されることもあるのですが、残念ながらその市場は今の日本には無いのです。

 

非常に先行きは厳しいように見えますが、今回のブームによって、お茶の提供ができるスペースが、日本の街のあちこちにできたことは事実です。
タピオカ店のビジネスモデルをよく理解した上で、このネットワークを活用するような新商品の提案が茶業界側からできたら、次の新しいお茶の波を起こすこともできるのかもしれません。

 

次回は11月16日の更新を予定しています。

 

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