第112回:統計の急変には必ず理由がある

21世紀の最初の20年が終了

今回が今年最初の更新となります。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

早いもので、21世紀に入ってから最初の20年が経過しました。
子供の頃は、車がチューブの中を走るような?ハイテク技術満載の世界が21世紀だと思っていたのですが、この20年はあまり大きくは違わなかったようです。
とはいえ、誰でもスマートフォンなどで様々な情報のやり取りを行ったり、お金を出さずにスマートウォッチをかざして決済したりしているところは、昔の人から見れば未来人の姿なのかもしれません。

10年だとあまり大きくは違わないように感じますが、20年となると、色々なものが変わります。
”一人の人間が生まれて成人するまでの年月”と考えると、20年の重みはあります。

そのようなこともあり、今月末に開催予定であるセミナーの準備を進めています。

2021年新春オンラインセミナー「21世紀の中国茶の20年」開催のお知らせ

準備を行っていく中で、グラフを見ていて気づいたことがありましたので、少しだけ先行してお伝えしたいと思います。

 

中国茶の急成長は21世紀に入ってから

まずは、中国のお茶の生産量の推移のグラフをご覧いただきたいと思います。

このグラフのように、中国の茶の生産量は2003年頃までは、説明がつきそうな順調な伸びを示していました。
しかし、2004年頃から、グラフの傾きがグッと上向きに変わり、急激な伸びを示すようになります。
”爆発的な伸び”あるいは”指数関数的な伸び”と言っても良いかもしれません。

人によっては”これはバブルだ”と見る向きもありますが、バブルというのは一時的に膨らんですぐに萎むものです。
バブルの状態が15年近くも続いているというのは、いささかおかしな話です。

あるいは、”中国の統計は政府によってねじ曲げられているから信用できない!”とおっしゃる方もいます。
単発のものならば可能性はあるでしょうし、確かに水増しもあるかもしれません。
が、仮に水増しされていたとしても、伸びているという状況自体を否定するものでは無いでしょう。
実際、お茶屋の数は増えていますし、そこに置かれているお茶も増えているわけですから。
数字が仮に半分だったとしても、急激な右肩上がりの成長基調であることを否定するのは難しいでしょう。

 

グラフで急な変化が起こるときには、構造的な転換がつきもの

グラフを見ていて、このような急激な変化を示すときは注意しなければなりません。
”今までの積み上げ”や”日頃の行い”だけでは、このような急な変化は発生することはないのです。

大体の場合において、急激な変化を見せる少し前のタイミングで何らかの構造的な変化があるものです。
実は、中国の茶業界でも2000年前後に大きな構造改革がありました。
その構造改革の結果が出始めたのが2004年頃からで、そこから中国の茶業界は急激な成長カーブを描くようになりました。

さて、その構造改革とは一体なんでしょうか?

 

続きはセミナーで・・・

 

・・・で終わると非常に怪しい情報商材のようになりますので、ここでは簡単な結論をお伝えします。

 

国営企業の民営化が中国の茶業界を変えた

2000年前後に中国の茶業界で起こったこと。
それは国営企業の民営化です。
ほとんど例外なく、2000年前後に有力な国営企業は一斉に民営化されています。
※この動きは茶業界だけではなく、中国の多くの産業に及ぶものです。

たとえば、中国最大の茶葉会社である中国茶葉股份有限公司(中茶)。
中茶牌のプーアル茶や胡蝶牌のジャスミン茶などは、日本でも目にする機会があると思います。

この会社は元々は統一的な買い付けを行うために1949年に設立された、中国茶葉公司が前身です。
その後、輸出を目的とした中国茶葉出口公司(”出口”は中国語で輸出の意)になり、土産公司や畜産公司なども合併します。
1985年には、全国18の分公司(分社)からなる国営の茶葉企業グループとなります。

中国茶葉公司の歴史沿革 : http://www.chinatea.com.cn/history.html

これらの会社のうち中国茶葉進出口公司(輸出入会社)が、2000年に中国茶葉股份有限公司に改組されます。
その上で、2004年に中国最大の食品会社(こちらも元国営)である中糧集団の傘下に入ることになり、完全に民営化されました。
生産を行っていた地方の分公司傘下の工場群も、主に工場のトップへの売却のような形で、民営化されます。

たとえば、チベット向けの黒茶(蔵茶)を作っていた国営の雅安茶廠も、2000年に四川省雅安茶廠有限公司へ民営化されました。

もちろん、中国においては民営化したといっても、政府や共産党からの強いコントロール下に置かれていることは事実です。
しかし、国の経営から切り離された以上は、政府の掲げる社会主義市場経済という旗印の下、市場原理に従っての競争が導入されることになります。
これによって柔軟な増産ができるというメリットもありますが、民間企業の参入によって激しい競争が生まれました。
競争していく中で、量や品質、マーケティングの面で飛躍的な成長を遂げたわけです。

黒茶に関して言えば、少数民族だけでは無く漢民族への営業ができるようにもなりましたし、割り当て地域などの制限も撤廃されています。
国営企業の時代と民営化の時代の違い、それがグラフの急増に表れているわけです。

実際には、ここまで単純な話ではないのですが、国営企業が民営化されたことは、21世紀の中国茶業を語る上では欠かせません。
このようなお話は、あまり聞いたことがないかもしれませんが、ある程度、茶業界に明るいコンサルタントが業界分析をすれば、すぐに気づくと思います。

 

いずれにしても、グラフの急激な動きに注目し、その前後を調べてみれば、色々なことが分かるものです。
これは時々、少し引いて、大きな視点で見ないと気づかないものです。
20年という節目で考えるのは、ちょうど良い機会ではないかと思いました。

 

次回は2月1日の更新を予定しています。

 

追記:第三波にも理由はある

上記と関係無い話ではありますが、現在、日本を騒がせている第三波にも、もっと構造的な理由があると思われます。

ウイルスは頻繁に変異するため、そのゲノム分析により、どこ由来のウイルスであるかをある程度判別することができます。
武漢型のウイルスは第一波の収束とともに日本国内からはほぼ無くなり、その後は欧米などからやって来たウイルス型によって第二波が起こりました。
しかし第二波を起こしたウイルスも国内ではほぼ無くなり、現在の第三波は再び外国からもたらされたウイルスによるものです。
国内からウイルスが勝手に湧いて出てくるわけではありません。

このような感染症の特徴を踏まえると、

・国内でしばらくウイルスを閉じ込め、感染した方は治療する
・それ以外の方は、外出を控えたり感染リスクを避けるなどして、感染予防を徹底し、感染しないようにする
・罹患した人が快復し、感染する人がいなくなれば、ウイルスは国内からほぼ無くなる
・ウイルスがほぼ無くなれば、基本的な感染症対策(手洗い等)を徹底することで流行を押さえ込める

という対策が導き出されます。

これを徹底して、封じ込めに成功したのが台湾であり、中国です。
ワクチンができれば、また話は違いますが、当面の感染症対策はこれしかありません。
どこの国も基本的にはこの戦略で封じ込めを図っています。

この戦略で最も大事なことは、国内に新たなウイルスを持ち込ませないことです。
台湾やニュージーランドのような島国やオーストラリアなどが封じ込めに成功しやすいのは、入国経路が絞りやすいということもあるでしょう。

多くの国では入国者に2週間の隔離期間を課し、その間に健康状態のチェックを行うとともに、市民とは隔離します。
仮に入国しようとする飛行機の機内で感染したとしても、一般的には2週間以内に発症する方が多いので、発症した場合でも対応ができます。
そして、この感染症は発症前から感染力を持ちますから、市民を感染リスクに晒す可能性は低くなります。
※中国では入国時に2週間、その後、各自治体でさらに1週間などのようにして、より厳重になっています。

この2週間の隔離は、たとえるならば、雪国の風除室のようなものです。
外が猛吹雪の時に家のドアを開けたら吹雪が吹き込んで大変なことになります。
が、風除室というクッションを作っておくことで、室内への雪や冷気の侵入を抑えることができます。
このような仕掛けがなければ、冬は越せません。

 

さて、日本の第三波は11月の上旬頃から感染者数が増え始め、12月~1月にかけて急激な増加を見せています。
先のセオリーに従って見てみれば、11月の初めに何が起こっていたはずです。

実際にその原因と思われる事象が起こっていて、それは統計にも出ていました。
それは入国者(帰国者)数です。
出入国在留管理庁が発表している入国者(帰国者)数の速報値をご覧ください。

総入国(帰国)者数 外国人入国者数 日本人帰国者数
2020年9月 42,210 18,859 23,351
2020年10月 62,227 35,581 26,646
2020年11月 97,056 66,603 30,453
2020年12月 127,343 69,742 57,601

データ元:http://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_nyukan.html

11月から入国者が急増しています。この理由は、政府が入国緩和措置をとりはじめたからです。
特定国を対象としたビジネストラック、レジデンストラックと呼ばれるもののが著名ですが、他の国にも対象を広げ、短期出張者などにも追加緩和されていました。
このあたりの経緯、外務省のWebサイトに掲載されています(現在は全て一時停止中です)。

国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について(外務省):https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/cp/page22_003380.html

これらの入国者に対しての水際対策は、当日の検温や検体検査程度で、強制的な隔離は無く、誓約書の提出と追跡アプリの使用推奨程度です。
現行法では、これしかできないので、このような運用になっているのですが、仮に感染していても発症していない場合は、体内のウイルス量が検査に引っかからない水準だった場合は、市中に感染が広がることになります。
急激な増加の背景にあるものは、こうした入国者(帰国者)が知らず知らずのうちに持ち込んでしまっていた可能性が高いように思います。
決して、国民が緩んだことやGoToキャンペーンだけが原因ではありません。

唐突なウイルスの発生だったので、第一波や第二波は天災だったかもしれません。
が、既に今回の感染症が発生して1年経っているわけで、対策を取る時間はあったはずです。

現在行っている外国人の入国を一律に拒否することが良いとは全く思いません。
人の交流はどうしても出てくるわけですから、そのための仕組みとルールを作るべきだったでしょう。
たとえば、空港近隣のホテルを隔離施設として借り上げ(費用はもちろん入国者負担)、14日間の隔離を義務づける、などの対策もできたでしょう。
現行法の枠組みでは難しいのであれば、入国者の私権を制限するための特別法を国会で議論もできたはずです。

そのような仕掛け・ルールも作らずに入国緩和措置をとれば、こうなるのは明らかでした。
もっとも悪いのは政府だけではありません。与党も野党もこうした議論を行ってきませんでしたし、メディアもこのような指摘を行ってきませんでした。
ほとんどの政治家は神風のごとく、ウイルスが勝手に消えてくれるか、他国の企業が開発するワクチンを当てにすることしか根本的な対策を考えてこなかったということです。
これは、もはや天災ではなく、人災です。

ようやく本日から開かれた国会では、自粛要請に従わなかった飲食店に対して罰則を科す議論をするそうですが、もっと他にやるべきことがあるように思えてなりません。
対策の基本である入国者のウイルス持ち込みを防ぐという問題が解決しなければ、船底に穴の開いた船に乗り続けているのと変わらないからです。
膨大な国家予算を浪費しかねないと思いますし、いつまで経っても、経済活動は回復しないでしょう。

蛇足失礼いたしました。

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