新型コロナウイルスの流行でも伸びた”新式茶”市場
いわゆるタピオカミルクティーなどを提供する”ティースタンド”は中国でも伸びています。
これらの店舗が提供するお茶は”新式茶”と呼ばれ、市場の拡大が続いています。
昨年12月に発表された、”2020新式茶飲白皮書(2020年ティードリンク白書)”では、2020年の新式茶の市場規模は1020億元と推計されています。
2019年が978億元でしたので、新型コロナウイルスによる外出制限などの逆風があったにも関わらず、約4.3%の伸びを示しています。
その一方で、店舗数自体の推計数値は、2019年の約50万店から約48万店に下がっています。
この理由は閉店が相次いだためです。
ティースタンドは小資本で開業ができ、参入障壁が低いので、雨後のタケノコのように出店が相次いでいました。
しかし、今回の新型コロナウイルスの流行により、都市部のロックダウンが行われ、街から人が消えました。
結果、資本蓄積の無い零細チェーンは持ちこたえることができず、撤退を余儀なくされました。
そのような状況下でも、新式茶の大手チェーンである、”喜茶(HEY TEA)”や”奈雪の茶”などは、資本市場から資金調達を行い、出店攻勢を掛けています。
これらの企業は比較的大型の店舗で展開するため、1店舗あたりの売上は増加し、店数減を跳ね返して、市場規模が拡大しているようです。
タピオカ屋と何が違うか?
中国の新式茶については、馴染みのある日本人はまだ少ないと思います。
タピオカミルクティーをようやく受容したばかりの日本の消費者観点でいくと、「所詮は、中国のタピオカ屋でしょ?」という見方もあろうかと思います。
しかし、中国の新式茶チェーンは、既に違う水準に達しているようです。
先程ご紹介した”白書”では、新式茶を
品質の良い茶葉、牛乳、新鮮なフルーツなど、天然の良質な食材を様々なベースティーと材料を組み合わせて作る中国のドリンク
と定義しています。
既に若者が伝統茶(新式茶の反意語で、今までの茶のこと)に触れる窓口になっているとしています。
そして、この新式茶の成長段階を三段階に分けて論じています。
新式茶Ver.1.0(2015~2018年)
第一段階は、2015年頃。原材料にこだわった飲料チェーン。これをバージョン1.0としています。
”喜茶”の前身である”皇茶”がオープンし、奈雪の茶も開店しチーズフルーツティーなどを売り出した時期です。
トップブランドのチェーンは、従来のタピオカミルクティー店よりも原材料にこだわり、自前の茶園や果樹園を準備するなど、他社との差別化を図っていきます。
新式茶Ver2.0(2018~2020年)
第二段階は、2018年以降です。多彩なメニューを用意した飲料チェーン。これをバージョン2.0としています。
単なるティースタンドではなく、空間の演出も含めた大型店が出てきたほか、ミルクティーだけでは無く、様々なアレンジティーが出て来ています。
スパークリングティーやチーズフォームティー、フルーツティーなどバリエーションが豊かになっています。
新式茶Ver3.0(2020年~)
そして、現在新式茶の大手は第三段階に入っているといいます。
これはデジタル化によって主に成し遂げられ、新型コロナウイルスの流行下という時代にも適したビジネススタイルになっています。
多くの顧客は、WeChatと連携したミニアプリ(小程序)を用い、オンラインで注文を行います。
店舗の混雑状況などから、提供予定時間などを伝えることができるため、店舗の混雑を避けるという消費者側のメリットはもちろんのこと、店舗側のオペレーションの効率化を果たすこともできます。
中国の都市部で利用が活発化しているデリバリーサービスにも対応しており、客席の数以上の高い売上を確保することもできます。
大手チェーンは、これらの顧客を会員化しており、そこから集まるビッグデータを活用して商品開発に活かしたり、ピンポイントな提案を行うダイレクトマーケティングも可能になっています。
喜茶や奈雪の茶は、それぞれ3000万人の会員情報を保有しているとのことですので、かなりの顧客資産を有していることになります。
ここまで来ると、もはやティースタンドの仮面を被ったデジタル企業といっても差し支えないかもしれません。
顧客層・価格帯について
顧客層については、”90後”、”00後”と呼ばれる30歳以下の層が7割となっています。
タピオカミルクティーというと女性のイメージが強いですが、様々な種類があるからか最近は男性比率が4割にまで高まっているとのことです(デリバリーの利用者)。
価格帯については、8割以上の顧客が週に1回以上購入しており、58%の消費者は15~24元(約243~389円)の価格を好んでいるとのことです。
中国の物価を考えると、比較的高額のように感じられます。実際、収入の調査によれば、毎月の可処分所得が8,000元(約13万円)以上の消費者が全体の49%を占めているそうです。
この新式茶の顧客の61%は、いわゆるホワイトカラー層で、大学などの高等教育を受けた人が82%を占めるとのことです。
比較的様々なことに意識の高い人々であり、ゼロカロリーなど健康に配慮した商品や原材料の安全性や品質などへの関心も高いようです。
彼女たち、彼らにとっては、「中国人として茶には興味があるが、伝統的なものよりも、イマドキのスタイルで楽しみたい」と考えているのかもしれません。
新式茶の見られ方が変わってきた
このように若者に人気の新式茶ですが、少し前まで茶業界の上層部では、採りあげられることが少なかったように感じます。
しかし、昨年ぐらいから大分風向きが変わってきました。
茶業界の重鎮などが集まる会議で、共産党の指導クラスの立場にある要人の挨拶の中に、これらの新式茶チェーンの名前を挙げ、「このように若者層を取り込めている企業があるではないか」という趣旨の発言を耳にすることが増えてきました。
中国という国は、中国共産党が指導して国家運営を行っています。
つまり、その要人が”新式茶”を認め、高く評価する発言をしているわけです。
そのようなことからか、2020年は新型コロナウイルスの流行にも関わらず、大型の資金調達案件が新式茶界隈で行われました。
これは国家的に推していく産業になりつつあることを示しています。
さらに、今年に入ってからも、大きなニュースがありました。
茶業界では現在、注目を集めているブランドである”小罐茶”。
この会社の副社長が、会社を退社し、新しい新式茶ブランドの”WILLCHA”の立ち上げを行い、小罐茶も投資を行っているとの発表でした。
伸びている企業である小罐茶の副社長のポストを蹴ってでも、新式茶の市場が伸びる、と考えているということでしょう。
奈雪の茶は、昨年7月に日本の大阪・道頓堀へ日本1号店をオープンし、日本進出も果たしています。
日本人の感覚からすると「タピオカのブームも落ちついたし、コロナだし、何故、こんな時期に進出するのだ・・・・・・」と思うのですが、どうもそんなレベルの話ではないようです。
伝統的なお茶に携わる方の中には、”新式茶”のようなアレンジティーを、眉をひそめて見る方もいるかもしれません。
しかし、これらのチェーンが、従来の伝統茶の企業がどうしても入り込めなかった市場を攻略し、若年者層が茶という飲料を消費する動きを作っているのです。
ここはひとつ鄧小平のように、”白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である”という考え方で、この新しい動きを注目してみてはいかがでしょうか。
次回は2月16日の更新を予定しています。