第122回:「団体標準」が加速させる茶業界の規律化

「標準」による規律化

このブログやセミナー「標準を読む」等でも、何度もお伝えしてきていますが、中国では「標準」という規格書を用いて、さまざまな事柄の基準を明文化しています。

中国は、基本的に行政ひいては中国共産党が、民間企業の活動に対しての指導を行うことが極めて多い国です。
指導を行う際には、根拠となる規範や文書が必要になります。

中国においては、法律だけでなく、中国共産党が出す「指導意見」「提言」「改革プラン」のような、”法律ではないけれども、公的に意向を示す文書”を根拠にして、指導が行われることもあります。
さまざまな「標準」も、そうした法律ではないけれども公的に意向を示す文書であり、それに従って行政指導などが行われてきました。

このような性質の文書であったこともあり、「標準」は以前は、以下のような区分けで制定されていました。

<政府が示すもの>
・国家標準(GB)・・・ 国家が示す基準。農薬残留量などは強制標準(GB)として拘束力を持たせ、茶種ごとの規定などは推奨標準(GB/T)とした。
・業界標準(NY、SBなど)・・・ 業界の所轄省庁が示す基準。農業農村部はNY、商務部はSBなど、各業界ごとの規定を行った。
・地方標準(DB)・・・ 各地方政府が示す基準。地元産のお茶などに関する規定を行った。

<民間が示すもの>
・企業標準(Q)・・・ 企業が独自に定める基準。政府基準よりも厳しい基準を自主制定し、政府の認可を得た。

どちらかといえば、行政の指導力を活かすために「標準」を制定するという色彩が強かった印象です。
企業標準という制度があるとはいえ、「標準」を制定する機関は、これまで、国や省、市などの政府機関が主に担ってきていました。

しかしながら、2015年に国務院が発表した2015年13号通達『深化標準和工作改革方案』を契機に、「標準」制度の改革が始まりました。
具体的には、標準制度を政府が統制のために作るものから、民間の活力を活かす手段に変えていくという方向で、標準制度の見直しが始まっていました。
それが、法案や標準情報の公開Webサイトなどが整備され、いよいよ具体化したのが2019年です。

 

「団体標準」制度の開始

2019年から効力を持つようになった団体標準制度が、まさにその大きな転換点になっています。

団体標準は、政府の認可を受けた団体(中国茶葉学会、中国茶葉流通協会のような全国組織のほか、各地方の茶業者団体等)が、自由に標準を起草できるようにしたものです。
政府に所定の手続きを経て、届け出ることで従来の「標準」と同等の働きを持たせることができます。

従来のように政府が一つ一つの標準を諮問委員会を立ち上げながら起草する形では、市場の変化に合わせた、柔軟な標準の制定や改訂作業がやりにくくなります。
特に標準の数が増えれば増えるほど、政府側の標準を管理するコストも増していきますから、その部分を市場の最前線で活動する民間に移譲した方が、効率的かつ機動的に運用できるのではないか、という考え方です。

この考え方に沿って、いくつかの団体から「団体標準」が公布、施行される段階になってきました。
この変化は、従来の標準制度の枠組みを変えるものなので、非常に大きな変更点だと感じます。

 

こんな基準も?「団体標準」の中身

「団体標準」では、従来の基準にもあったような、お茶の産地や製法などを定義する、お茶の定義書のようなものもあります。

が、それ以上にかなり面白い内容の基準が制定されています。
たとえば、中国茶葉学会や中国茶葉流通協会が制定した団体標準の一部を挙げると、以下のようなものがあります。

<中国茶葉学会制定>

・T/CTSS 3-2019 茶藝職業技能コンテスト技術規程(茶藝コンテストの評価方法や使用する茶器の大きさ・容量などを規定)
・T/CTSS 5-2019 潮州工夫茶茶藝技術規程(潮州工夫茶茶藝の技術を規定)
・T/CTSS 6-2020 中国茶藝レベル評価規定(茶藝の技術レベルの認定方法について規定)

<中国茶葉流通協会制定>

・T/CTMA 001-2017 茶文化旅游模範区評価規範(茶文化旅行地区の評価規定)
・T/CTMA 002-2018 駿眉紅茶(金駿眉、銀駿眉などの駿眉シリーズの紅茶の定義)
・T/CTMA 009—2020 茶館業界の復旧と感染症予防作業細則(茶館の感染症対策措置などを規定)

と、従来のお茶の規定だけではなく、タイムリーに制定しなければならないものや、流派などが混在して難しい茶藝の領域に関する規定なども制定されています。
政府機関が制定するよりも、機動的に標準が制定できるというのは、ここからも見てとれます。

 

「標準」を見ると、中国の茶業が分かる?

団体標準は、団体標準情報プラットフォームというサイトで、標準名と概要を見ることができます。

茶に関しての団体標準が何件あるかを調べるために、「茶」という文字で検索をかけると、本日現在で559件の団体標準がヒットします。
かなりのスピード感で、全国の茶業団体が団体標準を登録していることが分かります。

残念ながら、このサイトでは標準の原本を閲覧、ダウンロードすることは出来ないのですが、この一覧を見ているだけでも、だいぶ動向が見えてきます。

今後は、さまざまなお茶の定義やルールが団体標準で決められていくことになると思いますので、団体標準は今後も注目すべき分野になるかと思います。

 

なお、弊社では6月末から、こうした団体標準の紹介も含めた、オンラインセミナー「標準を読む2021」を開催いたします。
今回は全4回で、新設された標準や改訂された標準をご紹介していきますので、以前の講座を受講いただいた方にも、参考にしていただけるかと思います。
詳細は、以下のページよりご確認ください。

次回は7月1日の更新を予定しています。

 

関連記事

  1. 第84回:求められる新しい”コンセプト”

  2. 第87回:”ホンモノ”と”ニセモノ”の境目

  3. 第147回:中国茶の残留農薬基準は、現在どうなっているのか?

  4. 第159回:中国の茶業界の2022年十大ニュース

  5. 第106回:明るい茶業の未来を宣伝するメディアと変化に対応する茶業者

  6. 第43回:西湖龍井茶に見る、価格の理由と相場観

無料メルマガ登録(月1回配信)