第13回:日本人御用達のお店の売れ筋は・・・

中国茶に関心を持つきっかけとして、「旅先で本格的なお茶に出会った」ことを挙げる方は多くいます。

いわば、お茶の世界の入口になるのが、現地の茶葉店。
ファーストインパクトはとても大切なので、どのようなお店で、どのような茶葉がいくらぐらいで販売されているのかを知ることは大変有益だと思います。

とはいえ、正直、ガイドブックに載っているようなお店には、個人的に欲しいお茶が全く無かったりすることもあります。
全く納得の行かない買い物をせざるを得ないことも多いのですが、これも市場調査の一環です。
私が”ヒトバシラー”を自称する所以です。

 

今回は、上海の茶城の中でも外国人客の多い天山茶城。
その1階フロアで、日本語で呼び込みをしていたお店に入ってみました。

 

日本人に合わせた店づくり

茶城は、基本的には卸売りが中心という位置づけですので、呼び込みがあるだけでも規格外です。
しかも、それが日本語ということですから、飛び抜けて規格外のお店だと思います。

店頭には、カラフルな包装に入った小分けのお茶パックなどが用意されています。
日本人に人気がありそうな、工芸茶や乾燥フルーツの入った水果茶などもあり、お土産需要をかなり意識しています。

試飲台には、茶葉のサンプルがガラス瓶に入って置かれています。
どのようなお茶があるのか、分かりやすいようにしているとのことでした。

さらには、お茶のラインナップと価格表も明示しています。
単位は50g単位で、10元ぐらいのものから、高級茶は200元ぐらいのものまで並んでいます。
明朗会計なので、こうした点でも安心する日本人の形は多いでしょう。

この日は店長不在でしたが、接客してくれた安徽省出身の小姐によると、

・十数年前に開店
・日本人のお客さんを取り込もうと、日本語の挨拶をするところから始めた(元々日本語がしゃべれるわけでは無かった)
・ちょうど、上海の在留邦人が増えるタイミングに重なり、駐在員のクチコミで評判に
・忙しいときは、小分けパッケージづくりの作業で、残業残業の毎日だった
・ただ、常連になってくれた方々が数年前ぐらいから、どんどん日本へ帰国してしまった
・今は観光で来る日本人も少なくなっていて、ちょっと寂しい

とのこと。

スタッフの方も、中国では例外的なぐらいフレンドリー。
簡単な日本語の会話はOKとのことです。

日本人のお客さんがつき、その要望に応えているうちに、お店がどんどん日本人好みな方向に変化していったようです。
もっとも、「25g単位で売って欲しい」とか、高価なパッケージに入れて欲しいとか、要望は徐々にエスカレートしているようで、なかなか対応は大変そうです。
売り手からしたら、面倒で仕方ないことを平気で言うのが、日本人客ですので・・・。

 

日本人の売れ筋NO.1は・・・

日本人のお客さんに人気のお茶を聞いたところ、やはり烏龍茶が人気とのこと。
鉄観音、岩茶、単欉だけでなく、台湾烏龍茶の売れ行きも良いとか(安いものは台式烏龍だそうですが)。
さらには工芸茶などのジャスミン茶も人気だとか。

「一番人気はどれ?」と聞いたところ、「ダントツで黒烏龍茶!」と即答。

これには、うーん、と考え込んでしまいました。

中国には、そもそも「黒烏龍茶」なるお茶は存在していません。
言うまでもなく、これはサントリーのペットボトル茶の商品名であり、そのような茶葉は存在しないからです。

ゆえに、このお茶が取り扱われたきっかけは、店側からではないのは明らかです。

おそらく、日本人のお客さんから「黒烏龍茶は無いのか?」という問い合わせがあったのでしょう。
そこで、「黒烏龍茶って何だ?」という疑問を持ちながらも、「黒烏龍茶」らしきお茶を物色し、それをお客さんに飲ませて、好評だったものに絞り込んでいく・・・という商品化プロセスがあったのだろうと思います。

そして、並べてみたら非常に売れる。
「中国茶は詳しくない」という人が来ても「黒烏龍茶」と言えば、「知っている」となるし、(勝手に)健康に良いんだよね?と興味を持ってもらえる。

そうなれば、商品としてはきわめて優秀、ということになります。
たとえ、そのお茶がサントリーの提供する「黒烏龍茶」とは全く似ても似つかぬお茶だったとしても、です。

販売の現場では、売れることと顧客に喜んでもらうことこそが正義です。

 

環境を見つめ直す必要

誤解をしていただきたくないのですが、この現象は「黒烏龍茶」を販売するお店が悪いわけではありません。

そのような店は、この店だけでは無く、台湾の観光客向けの茶荘などでもありますし、日本のネットショップだったり、ドラッグストアの特売のお茶などにもよくある話です。
ビジネスなのですから、顧客に求められるものを販売することは、褒められることでありこそすれ、非難されるべきものではありません。

反省すべきは、そういうものしか売れない・求められない、というのは何故なのか?ということです。大手飲料メーカーの商品名ぐらいしか共通言語が無いという事実です。

お茶というものへの関心の低さ、ということもあるでしょう。
情報が発信できていない、あるいは伝え方が拙く、伝わっていないということなのだろうと思います。

必要な人に、必要な情報をどう伝えるか。
意識していない人にも、どのように情報や知識を刷り込んでいくか。

そうした、幅広い視点での情報流通戦略を、茶業界としては考えていかないといけないのだろうと思います。

一方、中国の消費者は、数年前とは比べものにならないぐらいの茶の情報に晒されています。
そして、知らず知らずのうちに茶に関する理解を深め、それが消費行動にまで表われてきています。
市場を作るとは、こういうことです。

「黒烏龍茶」が一番の売れ筋というのは、彼我の差を感じるエピソードと言えるかもしれません。

 

次回は5月22日の更新を予定しています。

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