第28回:”ブランド化”の功罪は

今月の初め、武夷山に出かけてきました。

武夷山では旅游区を中心に滞在していたのですが、武夷山空港から旅游区に至るまでの間には、数え切れないほどの茶葉店を見かけました。
さすがはお茶の街です。

さらには、真新しいショッピングモールが整備されてきており、現在開発中の物件も多数見かけました。
そうした商業施設の中にも、多数の茶葉店が出店しています。

中国国内での旅行ブームの高まりを感じる一方で、少し違和感を覚えることもありました。

モールの建設ラッシュが続く

武夷山の観光の中心になる旅游区では、真新しいショッピングモールやショッピングアーケードがいくつも開業していました。

そうしたショッピングモールのキーテナントになって、大きく看板を掲げているのは、武夷山らしいというべきか、地元の大手茶業メーカーの直営店舗です。

武夷山では、至る所にお茶屋さんがあるような土地柄なので、これは驚くには値しないことなのかもしれませんが・・・

それにしても、あまりにも立派すぎるショッピングモールに入っている茶葉店というのは、本当に採算が取れるのか?と心配になるところです。
地方都市とはいえ、非常に凝ったつくりの建物であり、大手の不動産デベロッパーが開発したものだと思いますので、賃料は安くはないでしょう。

そうなると、よほどの利益率が取れるか(すなわち粗利が大きい=茶葉が割高)か、よほど数量が捌けるかのどちらかなのですが・・・

こうした施設が1つしかない、あるいは寡占状態であれば、観光バスが横付けするなどして、かなりの顧客数が見込めます。
しかし、こうした商業施設は、市内に複数あり、さらに現在もどんどん建設が続いている様子です。

いくら世界遺産があり、国内外の観光客を多く引きつける武夷山とはいえ、過当競争のように感じます。
そう考えると顧客数を確保するのは難しそうですから、おそらくは「前者」なのだろうと思います。

全国統一価格を掲げる空港の茶葉店

武夷山の玄関口である、武夷山空港は軍民共用の小さな空港です。
昼間の時間帯には離発着便が無い上、小型ジェット機の飛来が多く、それほど利用客は多くないと思われるのですが、ここにも大手茶業の直営店舗がキラキラした店舗を出店しています。

武夷山を地元とする武夷星、安渓を地元とし株式公開もしている華祥苑茗茶。
その他にも茶葉を販売する店が、制限区域内も含めて6店舗も出店しています。

空港内の賃料はどこも高額になりがちです。
その証拠にカフェなどは中国国内であっても、だいたいが国際価格です。

そんななか、空港内の店舗で「全国統一価格」を掲げる店もありました。
「外で買っても、空港で買っても値段は変わらないから、空港でも安心して購入できる」とPRしたいのだろうと思われます。

が、普通の消費者であれば、「市中の店でも、空港並みの割高価格なのか」と感じるのではないでしょうか。

”ブランド化”が”打ち出の小槌”になっている?

2010年以降だと思いますが、中国の茶業界では「ブランド化」という言葉が大流行しています。

元々は、「中国には茶葉会社が7万社もあるのに、リプトン1社のブランド力に敵わないではないか」という論説が元になったようです。

これをきっかけに、中国の茶業界では「ブランド化」が呪文のように唱えられるようになりました。

確かに、無数にある生産者、茶葉店の中から、信頼のできる店を選ぶということは、非常に困難なことです。
安心して購入できるような会社・ブランドがあるということは、消費者にとっても大変大きなメリットがあることです。

こうして”ブランド化”という名のもと、茶業界では様々な動きが起きています。

たとえば、パッケージのデザインが急激に洗練されていることなどは、その1つの表れです。
著名な茶師が監修する「小罐茶」という、1回分のお茶が小さなパッケージに入ったお茶なども登場しました。

お茶の品質管理に力を入れ、工場のクリーン化を進めること。
さらには、農薬の使用履歴などを細かく記録し、Webサイトを通じて追跡ができる、トレーサビリティーシステムを立ち上げる会社も出て来ています。

このように「ブランド化」は、さまざまな面で中国の茶業界を近代化する原動力となってきました。
しかし、最近は、負の側面も強く感じるようになっています。

たとえば、全国で開催される、茶の展示会は年々規模が大きくなっています。
これは、地方政府などが「ブランド化」という名目の元に、補助金を茶葉会社に供給するなどの動きがあるためです。
地方政府は地元の経済を支えるリーディングカンパニー(龍頭企業)の成功が、地元の産業・経済の成功を意味しますから、できる限りバックアップします。
こうして「ブランド化」というキーワードは、”打ち出の小槌”のように使われるのです。

とはいえ、出展コストは補助金があっても増え続けることに変わりはありません。
その原資はどこから?ということになります。

また、ブランドイメージを確立するためのイメージ店舗・「旗艦店」の出店も盛んです。
しかし、こうした「旗艦店」が本当に採算が取れているのか?は、正直疑問に思われる面があります。
前述のショッピングモールの店舗や空港店舗などは、まさにそうした位置づけの店舗なのでしょう。

「ブランド化」はバズワード

どうも現在の中国の茶業界は、”ブランド化”という言葉が出てくると、支出の箍(たが)が外れてしまう傾向にあるようです。
まるで日本のバブル経済時の「企業メセナ」ブームだったり、ゴルフ会員権への投資ブームを思い起こさせるものがあります。
時代の雰囲気もあって、猫も杓子もこうしたことに乗り出していた時期でしたが、過剰な投資で痛手を負い、致命傷となった企業も多数ありました。

当然のことですが、採算に合わない経済活動を行っていけば、赤字が生まれます。
継続が前提である企業体である以上、度重なる赤字は許容されませんから、どこかで採算を合わせる必要が出てきます。

地方政府からの補助金もその一つでしょうが、そればかりを頼るわけには行きません。
自力で業績を改善しようとすれば、粗利益率の改善。すなわち、販売マージンを大きくするしかありません。
製造原価に、ブランド構築のための販売管理費を大きく乗せて、小売店舗での粗利額を大きくするのです。

これが何を意味するかといえば、販売価格の高騰です。
市中でも空港価格の茶葉にせざるを得なくなるでしょう。

その価格をどのようにして消費者に納得して、購入してもらうかが、販売の成否を決します。
現在のところ、”安心感”や”快適さ”、さらには”茶文化”というスパイスで、それを正当化することを目指しているようですが・・・

さすがに品質と価格の乖離が酷いので、これを中国の消費者が受け入れることは、なかなか難しいのではないかと思います。

経済原則に反した企業活動は、必ずどこかで躓き、大きな痛手を負います。
日本のバブル経済崩壊時の経験に合わせてみれば、”貧すれば鈍す”で、良いもの・良いことほど失われてしまうものです。
そうなる前に、もう少し理性的な目で”ブランド化”のコストの見直しを行ってもらいたいものです。

次回は11月30日の更新を予定しています。

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