第15回:求められる販売力

日本茶であれば、販売業者の顔ぶれというのは、そう大きくは変わらないと思います。
しかし、中国茶や台湾茶などは、担い手が変わることも多く、販売の仕方も大分変わってきています。

小分けスタイルの販売が主流に

かつては、お徳用など、大量のお茶が入ったパッケージが主流でした。
しかし、徐々に中国茶・台湾茶の種類の豊富さが知られてくるようになると、消費者側としては「あれも飲みたい」「これも飲みたい」というニーズが高まってきます。
また、手摘みなどがスタンダードになっている、中国の緑茶や台湾の高級烏龍茶などは、売価が高くなりがちです。
量が多いと手を出しにくくなってしまいます。

こうなると、大きなパッケージよりは、小さなパッケージが好まれるようになります。
小さくても100g単位だったパッケージは、50g、25gと小さくなっていきました。

最近では「お試し感覚で楽しめるように」ということからか、5gや10g程度のパッケージで販売されることも増えてきました。
中国などでも、1回分のお茶を小分けパックにしたものが、鉄観音などから始まり、最近はよく見かけるスタイルになりました。

小さすぎるパッケージは、茶葉の空気に触れる表面積が大きくなることから、保存には不向きです。
しかし、それ以上に使いやすい&買いやすいという、「手軽さ」が受けているのだろうと思います。

 

試飲をどう考えるか

このような包装の移り変わりや販売が小口化することは、市場の変化に合わせて当然のことだと思います。

もう1つ、最近参入された方に多くみられるのは、試飲スタイルを取り入れた販売方法です。

台湾や中国などのお茶屋さんでは、試飲をさせて、納得したものを買ってもらう、というのは非常に多いスタイルです。
こうしたスタイルでお茶の様々な魅力を知り、楽しさを体感した、という方も多いでしょう。
魅力ある多彩なお茶を伝えるには、飲ませるのが一番である、というのは間違いではありません。

 

しかし、これも少し立ち止まって、考えなければいけない点があります。
それは「事業として継続させるのであれば、きちんと採算が合うかどうかを考えなければならない」ということです。

また、試飲スタイルが当然である、という形になれば、消費者側もそれに適応していきます。
「適応」というよりも、当然の権利として、厚かましいぐらいの要求をしてくる人も出てきます。

そうなったときに、きちんとした採算の取れる商売になるのか?は、検証した上で行わなければなりません。

 

現地の人たちは購入量が違う

現地ではどんどん試飲をさせてもらえる、という話ですが、そのようなことが出来るのには裏付けが要ります
かなりの量のお茶が売れているから、実現できるのです。

たとえば、台湾の茶農家の中には、幹線道路沿いでドライブインのように立ち寄りやすい店舗を構えているところもあります。

そうした店舗に、週末には家族連れが車で乗り付け、お茶を購入していきます。

その時に購入していくお茶の量は、だいたいこの写真のような感じです。

茶の商売をしているわけでもない、一般の家でも、普通は4~5斤(2.4~3kg)。
少なくても2斤ぐらいは購入していきます。

台湾の場合、茶葉を10gぐらいガサッと投入し、淹れる。というスタイルもあると思いますが、これぐらいの量を1年で軽く消費し、他のお茶も飲んでいます。
お茶の消費量は日本人の比ではありません。

そもそも、販売単位が全然違うのです。
こういうお客さんが多くいるので、試飲茶をいくら出しても、そのコストは大して問題になりません。
購買単価も高いので、「店主がたっぷり時間をかけ、無料で試飲茶をバンバン振る舞う」というビジネスモデルは、十分に成立します。

日本人観光客も、かつては「親類縁者に。近所にお裾分け。会社用に・・・」と、かなりの量のお茶をお土産として購入していた時代がありました。
この頃は、台湾の茶荘にとっても、かなり良い顧客になっていたようです。

ただ、最近は「自分用に」と少量ずつ、50gや100g単位で購入するケースが目立つと現地のお茶屋さんから聞きます。
暗に「商売にならない」と訴えているように感じますが、購買単価が下がっているのは間違いないと思います。

それでも、にこやかに対応してもらえているのは、現地の上得意客の方が店の経営を支えているからでしょうし、将来、有望なお客さんになるかもしれない、という期待を込めてのことだと思います。

喩えれば、飛行機がファーストクラスやビジネスクラスに乗る顧客の売上で、エコノミークラスの安価な運賃が実現している、というのに似ています。
安い運賃かもしれないけれども、その乗客の中から、将来の上得意客に昇格する客が、数パーセントでも期待できればビジネスとして回る。

これと似た構造で、現地のお茶屋の経営は支えられています。
「購買単価の高い上顧客が店に付いている。だからこそ、試飲の大盤振る舞いができる」というのが、冷静にビジネスの視点から見た真相だと思います。

 

「20gのお茶を売るのに、5g試飲」では続かない

翻って、日本の市場を見渡すわけですが・・・

どうも日本人のお茶愛好家が、1つのお茶を大量に消費するスタイルに戻る見込みは無さそうです。
何も考えずに1種類のお茶を黙々と消費するような日は来ないでしょうし、それはペットボトルが担う市場でしょう。

そうなると、「多品種少量販売」というスタイルに活路を見出さないといけなくなってきます。
が、それはどのようなビジネスモデルならば成立するのか、真剣に考えなければいけないだろうと思います。

少量ずつの販売でも「選べる」という魅力が高じて、結果的に1人あたりのお茶の消費量や販売単価が上がる。
なおかつ、販売に要するコスト(時間と人件費)も抑えられるのであれば、これはビジネスとして十分に成立します。

しかし、少量パッケージのお茶(例えば20g)を売るのにも、1つ1つ試飲をさせ、その際に茶葉を5g使用しているのだとしたら・・・
これは商売としては、長続きしないだろうと思います。
また、消費者にとっても嬉しい話のように見えて、実は大変な不利益が生じます。

試飲に使った茶葉のぶんは、どこかで回収しないといけません。
それは当然、茶葉の価格に上乗せされることになりますから、茶葉は割高になっていきます。

さらに、販売する方が上手で「試飲させたら百発百中で購入する」のなら、自分が試飲茶葉のコストを払うだけなので、まだ良いのです。
が、そうでない場合は、買わずに無料で振る舞ってしまった分を、素直に購入した人が負担することになります。

結果的に、素直に買う人は、非常に割高な茶葉を購入せざるを得なくなります。

 

さらに、「試飲が当たり前」という風潮になれば、少量パッケージを購入する際にも試飲を要求する人が出てきます。
こうした消費行動を正当化することになっていくのです。

こうなってしまったら、何か別の収入源でもない限り、このようなスタイルのビジネスを続けていくのは困難です。

何でも試飲に頼るのでは無く、試飲以外でお茶の魅力を伝え、香りや味をイメージできるようにする。
あるいは継続的にお客様との関係を作っていく、本来の意味での”販売力”が問われるのだろうと思います。
「語れる」内容をどれだけ持つかという、引き出しの多さが必要になることは間違いありません。

「飲ませて売れる」のは、店の販売力が凄いのでは無く、ただ単に商品が良かったからです。
そのような仕事で、マージンを得るのはプロフェッショナルな仕事とはいえないでしょう。

 

店が続くことが一番の「普及」

誤解しないでいただきたいのですが、試飲を全て否定しているわけではありません。

たとえば、店の特徴だったり別のお茶の香りと味わいを知ってもらうために、代表的なお茶を何種類か選定し、それを飲ませる。
これは、お客さんとの関係づくりやお茶の淹れ方のプレゼンテーションという点でも、非常に有効だと思います。
”呼び水効果”ならぬ”呼び茶効果”は、間違いなくあります。
茶の香りが漂うお店は、やはり人を惹きつけます。

あるいは、ある程度の単価になるような大きなロットの商品を購入して貰う場合。
こうしたときに、店側から積極的に試飲をおすすめするというのは、とても誠実な対応だろうと思います。

しかし、少量小分けパックや少量での量り売りを提供しているのであれば・・・

何でもかんでも試飲をさせる必要はあるでしょうか?
お試しいただくための少量パック&少量販売なのですから、いささか度を過ぎたサービスだと思います。
このような試飲は、

・店舗の採算・手間の面
・試飲というコスト高な消費行動を強化・正当化してしまうこと
・お客様に結果的に割高なお茶を購入させていること

などの点から疑問を感じます。

「店で試飲させることも普及活動だ」という方も多いのですが、店の採算を削ってまで行う試飲は、はたして本当に消費者が求める普及活動でしょうか?

消費者にとって、一番ありがたいのは、自分の気に入ったお茶を適正で納得感のある価格で購入でき、さらにそのお店がいつまでも続いてくれることです。

そこを履き違えた販売行動は、結果的にマーケットを壊すことになりかねません。

 

次回は6月12日の更新を予定しています。

 

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