かつての中国茶の顧客層は?
これは全般的に当てはまることかと思いますが、良質な嗜好品は、どうしても高価になりがちです。
また、それを楽しむための道具であったり、イベントなども、高級なものが多くなってしまう傾向があります。
品質の良い中国茶も例外ではなく、高級茶のお値段はかなりの値段になります。
少し勉強しようと中国茶の資格を取得しようとすれば、費用は数十万円単位の話になりますし、茶席を設えようとすれば、多くの茶器や茶道具を購入することになり、お札が飛ぶように消えていきます。
そのため、「若年層にとっては費用負担が重たいので、中国茶はあまり流行らないのではないか」ということが、以前から言われてきたことです。
実際、若い人はあまり多くはなかったと思います。
かつて様々な中国茶関連の講習会などに出席した経験を思い返してみると、私が会場内で”最年少”と思われるケースが圧倒的多数でした。
また、「お茶は女性の趣味」という伝統的なイメージが強いからか、男性の姿が非常に少なく、40名ぐらいの講習会でも、男性受講者が私だけ、ということもありました。
このようなことから見ると、”30代後半以降の女性”、特に”子育てがある程度落ち着いた40代半ば以上の女性”というのが、もっとも活発に活動する顧客層だったのではないかと思います。
2000年前後以降の日本の中国茶業界は、この顧客層が中心となっていたと思われます。
おそらく中国茶業界だけではなく、品質の高いお茶を扱う紅茶などの業界でも、似たような状況だったのではないでしょうか。
時間と予算に余裕のある人がターゲット、のようなイメージはありました。
しかし、ここ数年、この風向きもだいぶ変わってきているのではないか、と感じます。
端的に言うと、「若年層」と「男性」の割合が増えてきています。
これは単なる印象ではなく、きちんとデータとして表れているものです。
運営しているYouTubeチャンネルの視聴者層
参考データとして提示したいものは、私が運営しているYouTubeチャンネルの視聴者データです。
私は約2年ほど、中国茶の専門チャンネルを運営しており、これまでに約30万回・約3.5万時間の動画視聴があります(チャンネル登録者数は約4千人)。
YouTubeには、利用者の好みを分析して、動画をおすすめするという機能が備わっています。
これにより、私のことを全く知らない方のところにも、動画がおすすめされ、視聴いただくというケースも多数あります。
それなりに有益と思われる動画を投稿しさえすれば、YouTubeがそれを好みそうな利用者に勝手におすすめし、どんどん中国茶のファンが増えていく、という仕組みになっています。
※利用者は興味のある動画が見つかるし、YouTubeは視聴時間が伸びれば広告を表示する機会に恵まれるということで「Win-Win-Win」の関係になるわけです。
2年間に視聴いただいた視聴者データ(YouTubeに利用者が自己申告で登録したもの)は以下の通りです。
男女比では女性が約6割、男性が約4割。
年齢層別では、45~54歳が27%となっていますが、ほぼ差が無く35~44歳、25~34歳、55~64歳と順に続くようになっています。
男性視聴者数が比較的多いのは、チャンネルの特性として「出演者が男性である」こと「理詰めの解説が比較的多い」という要因があると思われます。
一般的に「”おじさんYouTuber”のチャンネルは、おじさんしか見ない」と言われますが、女性視聴者が約6割というのはお茶というジャンルが大きく影響していると思われます。
年齢層については、「出演者の年齢の前後10歳程度がもっとも共感を得やすい」と言われるので、それを反映していると思われます。
しかし、意外に感じられるのは、34歳以下の年齢層が約4分の1を占めているということです。
従来の中国茶業界の顧客層には入ってこなかった世代です。
しかし、意外に関心が高いのです。
コストを抑えつつ、本格的なお茶を楽しめるようになってきた
この変化は、決して一つの理由だけではありません。
おうち時間の増加などの社会的な背景や少し前まで台湾が旅行の人気先となっていたなど、色々な要因が絡んでいます。
しかし、大まかに説明をするとすれば、「コストを抑えながらも、本格的なお茶を楽しめる環境が整いつつある」という環境変化があると思います。
この点について、整理してみたいと思います。
1.茶葉の少量パッケージ化
まず、従来であれば、お茶のパッケージは通常でも50g程度。最低でも25gというのが一般的でした。
しかし、最近は5~10g程度の少量からも購入できるようになっています。
茶葉自体の平均価格は、従来よりも確実に上がってきていますが、少量であれば上質なお茶でも購入することができます。
また、お試しセットや福袋のような「様々なお茶を少量ずつ買える」という商品が増えてきたことも大きいと思います。
2.茶器の低価格化
もう一つ、大きな要因は茶器の低価格化です。
従来であれば、それなりにお茶を飲める道具を揃えようとすれば、1万円前後するのが普通でした。
しかし、中国製の低価格茶器の品質が随分向上したことなどから、最低限の道具に絞れば、数千円で揃えることもできるようになっています。
湯を沸かす電気ケトルなども、低価格で購入できるようになり、始めるハードルは低くなっています。
3.SNS等による情報入手コストの低下
従来であれば、中国茶に触れてみたいとなれば、本を買うのが一般的でした。
しかし、本は知識を得るにはある程度の役に立ちますが、実際に淹れて飲む方法を知るには物足りない面もあります。
近隣に中国茶のお店などがあれば、そこへ行くという手がありますが、よく知らないジャンルの専門店を訪れるというのは、やはり心理的なハードルも高いものです。
しかし、今では動画等で説明がなされており、無料でどこからでもアクセスできます。
従来は「淹れ方を学ぶのに、わざわざ教室まで出かけていた・・・」と考えると、費用・時間・心理的ハードルのコストは大きく低減しています。
また、SNS上には比較的オープンな中国茶コミュニティーが形成されており、他の人がどんなお茶を飲んでいるのかを見ることもできます。
従来は教室などに通って、そこに集う人との交流を経て情報を得ていたのが、今は勝手に情報がスマートフォンに流れてくるわけで、情報入手のコストが従来とは全く違います。
このように、様々な面でコストが下がっているので、始めやすさが変わっているのだと感じられます。
若年層の増加は未来を明るくするが、懸念点も
若年層のお茶の愛好家が増えることは、いわゆるLTV(ライフタイムバリュー・顧客生涯価値)の観点からも、大変良いことだと思います。
ある程度、品質が高く、美味しいと感じられるお茶と出会っていると、嗜好品の選択肢の中にお茶が組み込まれることになります。
若いうちにこそ、平凡な品質のお茶ではなく、本当に美味しいお茶を味わう機会を、ぜひ持っていただきたいものです。
※無償か有償でも低廉な価格で提供することが、将来の顧客創造に繋がります。
このような若年層の方が増えてくると、未来は明るい、と感じるのですが、懸念する点もあります。
それは業界側の体質の問題です。
従来の販売店や中国茶教室などのスタイルを見ていると、関心のあるうちに多くの茶葉や茶器、講座を受講することを促し、”短期間で一気に刈り取ってしまう”ような印象を受けることも多くありました。
人間の関心には波があるものなので、その最初の波の時に、一気に売り込みを仕掛けてしまうというイメージです。
ある程度、時間と予算に余裕がある層であれば、ひょっとしたらビジネス的にはそれが正解だったのかもしれません。
しかし、そのようにして短期間に一気に投資をしてしまった方ほど、その後、お茶の世界から遠ざかっているケースが多いようにも感じます。
「細く長く楽しむための、適正な巡航速度」というものを見いだし、無理の掛からないような形で長くお付き合いをして行く、というスタイルが、年齢層が低くなればなるほど求められると感じます。
このあたりのモードチェンジを業界側でもできるかどうかが、今後の課題点になるかもしれません。
次回は3月16日の更新を予定しています。