第163回:ChatGPTで中国茶について聞いてみた

最近話題のChatGPTを使ってみた

最近、話題になっているサービスに「ChatGPT」というサービスがあります。
これはOpenAI社が開発し、2022年11月にリリースされた、AI(人工知能)を使ったチャットサービスです。
文字通り、チャットのような形で質問を投げかけると、それに合った返答をオリジナルテキストで返してくれるというものです。

このAIを使ったサービスは各方面で注目を集めていて、

・簡単な調べ物なら、非常に優秀
・文章がこなれているので、もはやWebライターなどは不要になるのではないか
・疑問を投げかければ、何でも答えてくれるから専門家は要らない

等々の極論も飛び出ています。

そのような状況になると、中国茶の専門家などお役御免になってしまうでしょう。

これは大変由々しき事態なので、早速、ChatGPTに利用登録をし、実際に中国茶に関する質問を投げかけてみました。
果たして、その実力や如何に?

 

中国茶の六大茶類について聞いてみた

まずは中国茶の基本中の基本である、六大茶類について聞いてみました。
結果はこのようになりました(3月16日の回答結果)

途中で回答は切れてしまいましたが、上から順に見ていきましょう。

最初の緑茶の記述に関しては、ほぼ的確な回答だと思います。
加熱や揉むという表現は、やや紋切り型の感じは否めませんが、緑茶は製法で定義されるという点もきちんと押さえています。

続いて紅茶ですが、「茶葉を黒色に変化」というところが少ししっくり来ません。
英語ではBlack Teaですから、「アメリカ育ちだからかな?」と温かく見守りたいと思います。
そして代表的なお茶に、金鳳凰紅茶というのが入ってくるのですが、これはちょっと良く分かりません。
金鳳凰は、福建省茶葉研究所が鳳凰水仙種から選抜育成した新品種なのですが、それの紅茶を指しているのだとしたら、渋すぎる選択です。

3つめの「オレンジペコー茶」は・・・ どうやら烏龍茶っぽいですね。
OolongとOrangeの綴りが似ているからでしょうか。よく分からない混同です。

4つめの白茶は、加熱はしないので、この点は明確に間違っています。
そして、青茶の風味があるというのが出てくるのですが、これもよく分かりません。

5つめの黄茶については、悶黄工程は酸化酵素に依らない反応、すなわち発酵では無いので、発酵工程というのは間違いです。
また、代表銘柄に挙げている、黄山毛峰と六安瓜片は緑茶です。全然当てにならないですね。

そして最後の「暗香烏龍茶」とは・・・
天然発酵というのも謎な表現ですし、代表銘柄の祁門烏龍茶というのはさすがに意味が不明です。

 

というわけで、なんとなくもっともらしい文章を書き出してはきますが、中身はあまり当てにならなさそうです。
しかし、これは少しテーマが大きすぎたのかもしれません。
もう少し、テーマを絞り込んで、質問をしてみました。

 

白茶の歴史について聞いてみた

世界的にも人気になっているので、白茶の歴史について聞いてみました。

まずは一行目ですが、白茶の生産地域がずいぶん狭まった地域になっています。雲南省などもあるのですが。
福建省の福鼎市は良いとしても、福建省三明市の傘下にある建寧県を敢えて挙げてくるのは、よく分かりません。そこまで生産量の多い産地ではありません。
普通なら南平市の政和県か建陽区あたりが候補だと思うのですが。
また、「茶の中でもっとも歴史のある種類」というのは、中国茶の世界で一般的な常識とされる事実に反しています。
※いわゆる萎凋→乾燥の白茶製法が生まれたのは清代とされています。

次の文章の唐代に始まり、宋代には広く栽培され・・・というのは、製法としての白茶の話ではありません。
陸羽の『茶経』や徽宗帝の『大観茶論』には確かに「白茶」の記述はあります。
しかし、これは産毛の多い品種のお茶か安吉白茶のような白化品種だったとするのが、現在の中国茶世界の通説ですから、話を盛りすぎています。

なお、このような書き方は、中国の白茶の生産メーカーや産地などが、やたらと長い歴史を強調するために書く、定型文のようなものです(「始于唐、兴于宋,盛于明」のようなお約束の文)。
全く史実に忠実では無いのですが、歴史が古いということを言いたいがために、他の白茶の定義を借用しているというものです。
ChatGPTは、学習材料としてネット記事を使うのですが、中国のネット記事をよく読み込んでいるようなので、このような文章も学習してしまったのだろうと思います。
どうやらAIはプロパガンダに弱いようです。

3行目の「太陽で乾燥」というのはおそらく日光萎凋のことを指していると思われます。
日に晒す萎凋と乾燥の区別が付いていないようで、変な文章になっています。

最後の文は良さそうですが、やはり建寧県を推しているのが気になります。
読み込んで学習したソースに建寧県の業者のものが多かったのかもしれません。謎の建寧県推しです。

やはり、ChatGPTに、中国茶の専門的な内容を解説させるのは厳しいのかもしれません。
日本語の情報はほぼ学習していないので、中国語か英語のWebの記事を学習しているものと思われます。
それを日本語に翻訳しているわけですが、マイナーな茶の専門用語を自動翻訳に掛けると、ひどい結果が出るのはわかりきったことです。
そもそも日本語による中国茶のWeb記事は非常に少ないですし、あったとしても怪しい見識で書かれたものも多いので、ノイズにしかならないと思います。

 

東京都内の中国茶カフェのお勧めを聞いてみた

専門的なものはダメでも、お店の情報などは得意かもしれません。
これらはいくらでもWebの記事にありますし、こうしたものを集約することこそ、得意な分野では無いかと思いつきました。
そこで、東京都内の中国茶カフェについて聞いてみました。

リストに挙がった4店舗は全く聞いたこともないお店でした。
全て中国出身のオーナー(マスター)という共通点は不思議ですが、そういう事情で日本のWebなどでは引っかからないのかもしれません。
なるほど、これは是非行ってみたい!と思って、Googleに店名をいれて検索してみたのですが・・・

 

なんと一件もヒットしませんでした

 

これは架空の店舗をChatGPTが作り上げて、リストアップしたということです。
もっともらしい店舗紹介が書かれているので、危うく信じるところでした。。。
どうやら、ローカルな情報はまだ学習が進んでいなかったようです。

 

今のところ、あまりソースにはならないが危険性も

というわけで、いくつか投げかけてみた質問のうち、3つを紹介してみました。
これを見ていただければ分かるとおり、まだあまり役に立つソースにはならないと思われます。

おそらく、学習材料は中国のネット情報が中心になっていると思われます。
が、中国のネット情報の不確かさもかなり幅がありますし、なにより売らんがための熱心な情報発信も多く、そうしたものに引きずられてしまっている感もありそうです。

もっとも、AIというものの本質を考えると、学習が進めば進むほど、より正確な回答を出してくるようになる可能性も否定できません。
しかし、そこまで行くにはネット上に確かな中国茶に関する情報が山のようにある状態にならなければなりません。
果たして、それは実現可能か?と考えると、かなり難しいと思います。

ChatGPTが、今後、信頼のできる学術論文や書籍なども学習材料にすることがない限り、どうやらしばらくは専門家という存在は不要にならなさそうです。

もっとも、非常に大きな懸念点もあります。
それは、今後、ChatGPTなどの文章生成AIを用いて、ネット上に不確かな記事を大量生産するWebサイトなどが乱立する可能性です。
これは広告などを貼るための意味の無いWebサイトで、こうしたものに検索エンジンなどが毒されてしまうと、インターネット上のカオス状態はひどいことになるように思います。
さすがに検索エンジンを運営する各社はきちんと対策をしてくるものと思われますが、AI生成の文章を「簡単に鵜呑みにしない」という、利用者側のリテラシーも必要になるのかと思います。

 

次回は4月1日の更新を予定しています。

 

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