あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
新年最初の話題は、昨年の11月に公布されたばかりの中国の国家標準(国家規格)『抹茶』についてです。
現在、日本でも日本茶業中央会において、国際標準化機構(ISO)へ国際標準として提案することを目指し、抹茶の規格が検討されています。
今年3月にも正式に制定される見込みと報道にはあります。
それよりも早く、中国は国家規格としてリリースしていますので、その内容を少し見てみたいと思います。
※翻訳文は筆者が作成したものにつき、言葉のニュアンスが厳密には異なる可能性があることをご承知おきください。
11月公布、5月より施行
中国の国家標準『抹茶』(GB/T 34778-2017)は2017年11月1日に公布され、2018年5月1日より施行される予定です。
書類の分量は、表紙と前文、付録(官能審査の方法と粒度の検査方法を記載)も含めて10ページ、本文は4ページときわめて簡素になっています。
起草機関は前文によると、
この標準の起草機関:浙江省茶葉集団股份有限公司、中華全国供銷合作総社杭州茶葉研究院、国家茶葉質量監督検験中心、宇治抹茶(上海)有限公司、安徽農業大学、江蘇鑫品茶業有限公司、紹興御茶村茶業有限公司。
となっており、政府系の研究機関や大学のほか、抹茶の生産企業などが名を連ねています。
この標準では、抹茶の用語と定義、必要条件、試験方法、検査ルール、表示、ラベル、包装、輸送と保存について規定されています。
抹茶と覆い香を定義
この標準で特に定義されている用語が、「抹茶」と抹茶に特有の香りとされる「覆い香」です。
3.1 抹茶(抹茶) Matcha
被覆栽培した茶樹の生葉を蒸気(あるいは熱風)で殺青後、乾燥させた葉を原料とし、研磨技法を経ることによって加工された微粉状の茶製品。
3.2 覆い香(覆盖香) aroma of shaded tea
遮陰被覆を経た茶樹を加工して生産された抹茶製品に特有の、きめ細やかでフレッシュな香りあるいは海苔のような香りといった特徴ある香気。
この文面を読む限りでは、抹茶の原材料である「碾茶」については定義をされず、言及も特に無いようです。
「殺青後、乾燥」と記述されていますので、揉捻をしないということが明記されているとも解釈できますが、原料茶の製法について特に指定されていない、と解釈することも出来てしまいそうです。
ここは品質のブレを生む可能性のある部分かと思われます。
無着色、無添加を義務づけ。等級は一級と二級のみ
第4章では、抹茶製品の必要条件について記述されています。
まず、基本必要条件として、
4.1.1 製品は抹茶の品質特性を備えており、いかなる茶類以外の物質も含まないこと。
4.1.2 着色もせず、いかなる添加剤も用いないこと。
という記述にあるように、無着色、無添加を義務づけています。
また、製品の等級を「一級」と「二級」の2つと定義し、それぞれの官能品質指標、理化学指標について記述しています。
官能品質指標は、中国の審査用語(評語)で記述されており、日本語訳は困難ですので、簡体字から変換の上、そのまま記載しています。
表1 官能品質
級別 外形 内質 色沢 顆粒 香気 湯色 滋味 一級 鮮緑明亮 柔軟細膩均匀 覆蓋香顕著 濃緑 鮮純味濃 二級 翠緑明亮 細膩均匀 覆蓋香明顕 緑 純正味濃 表2 理化学指標
項目 指標 一級 二級 粒度(D60) 18μm 以下 水分(質量分率)/% 6.0 以下 総灰分(質量分率)/% 8.0 以下 テアニン総量(質量分率)/% 1.0 以上 0.5 以上 注:D60はサンプル総量の60%
一級と二級の違いは、人間の五感による官能審査項目に加え、理化学指標のテアニン総量でも見ることとされているようです。
付録で官能審査の方法を定義
抹茶はお茶の官能審査の方法を別に定めることにしており、それが本標準の付録Aに規範性付録として、掲載されています。
道具については、
A.2 審評主要道具
審評の主要な道具は以下のものを含む:
・評審盤(直径25cm~28cm、深さ4cmのブリキで作られた黒色の円形の道具)
・はかり(適した感量の電子秤あるいは皿つきの天秤)
・茶碗(厚さ2mm、口径93mm、深さ48mmの白色磁器、容積は200ml)
・小茶匙(1回に5ml~10mlの茶湯を取れるもの)
・茶筅(一般の茶道用具で、攪拌するために用いる)
とされており、通常の中国茶の道具とは大きく異なるものを指定しています。
審査の手順としては、まず乾評として抹茶の外観を評価し、ついで湿評として抹茶の内質を見るとしています。
外観の審査については、
A.4 外形審評
試料を十分に混合した上で、5g~10gのサンプルを取り、黒色の評審盤にあけ、色沢と顆粒のきめ細やかさをじっくりと見て、香気を聞く。
としています。
内質の評価については、
A.5 内質審評
正確に量った2gのサンプルを茶碗の中に入れ、70℃~80℃の湯を60ml注ぎ、茶筅を用いてまずは均等になるように攪拌する。そして茶碗に鼻を近づけて香気を嗅ぎ、そのあと抹茶が沈殿する前に素早く茶湯の色を観察する。続いて、また茶筅で茶湯を軽く攪拌してから、滋味をみる。
と、茶筅を用いた方法を記述しています。
点数の付け方は、「高」「較高」「稍高」「相当」「稍低」「較低」「低」の7段階をそれぞれの評価ポイントについて設定し、それぞれ、+3 ~ -3までの点数をつけるとしています。
今回の標準は、製品としての最小限の内容を定義したもの
ここまで見てきたように、今回リリースされた国家標準は、製法の部分や栽培方法などについての詳細な記述はなく、あくまで最低限度の基準です。
中国では、世界的な抹茶ブームの流れを受けて、抹茶の生産に新規参入する茶業者が相次いでいます。
「茶葉を高度に加工することは、茶業者の収益性を高める」という考え方が、茶業者の間でも定着化してきているからです。
そうした企業群に対して適切な行政指導を行う上では、最低限度であっても、とにかく早く規範が必要であった、ということなのだろうと思います。
現実的に考えると、製法や栽培方法など、詳細な点を定義していこうとすると、同業者間でも話がまとまらないことは往々にしてあります。
完璧なものを作るのは、後回しにして、まずは妥協できる点のみを組み込み、早々にリリースしたのであろうと思われます。
ここ数年の傾向として、このような製品ごとの基準を作成した後に、製法に関して「加工技術規範」という基礎標準を設け、より厳密に定義をする流れが定着しています。
今回の標準の中身をみると、抹茶についても、同じような流れで追加の標準が作成されるのではないか、と思われます。
現時点の標準の内容は、いかにも不十分なように見えますし、茶業者の方の中には規定されているレベルの低さに「恐るるに足らず」と判断されるかもしれません。
とはいえ、中国が日本に先んじて、国家レベルの公式文書で抹茶を定義した、という事実は無視できません。
このことは、現在制定中の日本の標準が、各国に広く受け入れられるかどうかに、少なからず影響を与えることは間違いないと思われます。
なぜなら、日本で現在議論されているような被覆期間や茶臼の材質などが”過剰なこだわり”と判断されてしまえば、抹茶の生産に新規参入したい国・地域ほど、より簡素な標準の支持に回る可能性があるからです。
次回は1月22日の更新を予定しています。