文山の品評会受賞茶のパッケージ変更
今年(民国107年度)の春茶から、新北市で実施している文山包種茶のコンテスト受賞茶のパッケージが変わりました。
「茶」の文字、蝶と花、一芯二葉をモチーフに織り込んだマークが採用され、それぞれの賞の等級ごとに色違いのパッケージになりました。
ブランドイメージの更新を図るために、各産地のコンテスト茶のパッケージは定期的に見直されています。
なお、今年の価格(定価)は以下の通りです。
それぞれ、1斤(600g)の台湾ドルでの価格です。
一、特等獎 | 50,000 |
二、頭等獎(1) | 30,000 |
三、頭等獎(2)–(5) | 20,000 |
四、頭等獎(6)-(10) | 15,000 |
五、頭等獎 | 8,000 |
六、貳等獎 | 5,000 |
七、參等獎 | 3,600 |
八、優良獎 | 2,400 |
優良奨の価格は、通常の文山包種茶の相場価格よりも若干高い程度ですが、特等奨ともなると、20倍以上の価格に跳ね上がります。
生産者にとっては、なかなか夢のあるコンテストだと思います。
コンテストの基準も動く
さて、パッケージの変更は、消費者にとってはイメージの一新を意味するので、非常に分かりやすいのですが、実はコンテストの審査基準も時々大きく動くことがあります。
非常に分かりやすい例は、新竹県の東方美人茶のコンテストです。
日本では、東方美人は「紅茶のような・・・」という言葉で表現されるように、紅い水色をしたものが好ましいものと捉えられているかもしれません。
が、現地のコンテスト受賞茶の水色は、紅色というよりは黄金色の水色を要求されるようになってきています。
このような水色を出すためには、より発酵程度が軽くないとできないわけで、当然、製法にも影響してきます。
発酵が軽くなれば当然味わいや香りも変わるので、古くからの東方美人の愛好家からは様々な不満の声も聞かれますし、今でもそういう声を耳にします。
が、このような水色を東方美人茶の目指すべきものとして繰り返しコンテストを行ったことで、現在、新竹で生産される品評会クラスの高級東方美人茶は、このような水色のものが多くなってきています。
これを「嘆かわしい。東方美人茶の伝統は失われた」と批判的に見る愛好家や茶業者も一部にはいます。
が、現在の市場を冷静に見てみると、「この変更は、実は大英断だったのではないか?」と感じられるようになってきました。
今や蜜香だけでは生き残れない
東方美人茶というと、日本ではとにかく「ウンカが咬んだお茶」「ウンカによって蜜香の出ているお茶」という点を強調して説明されます。
が、このようなウンカの咬害に遭った茶葉を使った、「蜜香」を有するお茶は、台湾でどんどん増えてきています。
たとえば、1999年の921大地震をきっかけに生まれた、ということになっている凍頂貴妃茶(蜜香烏龍茶)もそうですし、花蓮や台東などでつくられる蜜香紅茶も、今や台湾全土でつくられるようになってきています。
かつては、ウンカの咬害に遭った茶葉でつくることが東方美人茶の決定的な差別化要因になっていたのですが、2000年以降はこのようなお茶が多数出て来ています。
しかも、台地である新竹よりも、山地に位置するような茶産地の方が、ウンカの発生量は豊富です。
ウンカの咬害の多さ=蜜香の強さになるとすれば、新竹の環境は決して恵まれたものではありません。
おそらく、蜜香だけが取り柄の茶葉であれば、東方美人茶も価格競争に巻き込まれていたことでしょう。
前回の記事にあったような、低迷している台湾茶の中で高単価を維持するということはできなかったに違いありません。
特に発酵度が高い蜜香紅茶は、発酵による甘い香りも重なり、東方美人茶にとっては最大の脅威だったに違いありません。
が、結果としては、蜜香紅茶の価格はさほど上がらず、東方美人茶は高単価を享受できています。
その理由の1つに、このコンテストの評価基準の変更があったのではないかと思います。
繊細な一芯二葉を用いることが決定的な差別化要因に
淡い黄金色の水色をつくる上では、発酵程度ももちろん鍵になりますが、もう1つ、原材料への要求も厳しくなります。
非常に小さな一芯二葉の茶葉でないと、このような水色はなかなか実現できません。
小さな芽を摘むということは、茶摘みの手間は増え、1人あたりの収穫量は減りますから、生葉コストの高止まりを意味します。
生葉が高ければ、当然高い価格で販売しないと割に合いません。
「そのリスクを負っても、高単価で売れる」という確信が無いと、なかなか生産には踏み出せないのです。
そして、小さな芽になればなるほど、製茶の難易度は高くなります。
ウンカ芽の茶葉はそもそも脆い茶葉であり、製茶の難易度は高くなります。
そこへ来て、さらに小さな芽となれば、葉を痛めずに適切な発酵に仕上げるのは至難の業です。
この手の茶葉に慣れた、高度な技術を有した茶師で無いとなかなかできません。
しかし、それを乗り越えられれば、小さな芽ならではの甘みや繊細な風味を存分に発揮でき、蜜香だけではない魅力が生まれます。
こうした知名度と技術の蓄積は、東方美人茶を長らく作っている新竹にはありますが、他の茶産地には無いものです。
黄金の水色を目指すことは、地元の得意な製茶技術をもっとも活かし、しかも競争の無い市場(いわゆるブルーオーシャン)に踏み出させるための、巧みな戦略だったように感じられます。
当然、昔の味わいを求める茶業者からの反発は相当あったと思いますが、そこを乗り越えて、現在の状況を生み出しているわけですから、「先見の明があった」と称賛されるべきではないかと思います。
台湾でも日本でも、お茶の「コンテスト」と名のつくものは大小様々なものが開催されています。
それらのコンテストが茶業にどういう影響を与えるのか、きちんとデザインされたものであると良いのですが、そこまで考えられているコンテストはそう多くないように感じられます。
9月の更新はお休みし、次回の更新は10月10日を予定しています。