名茶の博物館、建設ラッシュ
近年、中国の茶産地では博物館の建設が進んでいます。
以前であれば、お茶の博物館といえば、杭州にある中国茶葉博物館ぐらいでした。
しかし、今では有力なお茶を生産する産地には、たいていその地域の名茶の博物館なる施設が出来ています。
運営主体は、九曲紅梅の産地のように地元政府のこともありますが、その地域の大手メーカーが主体となって建設するケースが多いようです。
弊社で運営している「中国茶情報局」でも、博物館のニュースはかなり多く報じられています。
「博物館」をキーワードに検索していただくと、かなりの数の記事にヒットします。
なぜ博物館が増えるのか?
各地で続々と博物館を建設する目的は、どこにあるのでしょうか?
いくつかの理由が考えられますが、1つは名茶のブランディングとプロモーションのためです。
とりわけ、中国においては「博物館」とは、いわばさまざまな知識と文物の宝庫であり、まさに知的な場所であると見做されることが多いようです。
このため、茶葉メーカーなどにとっては、自社の製品などが博物館に納入されたことを非常に喜ばしいニュースとして大きく報じます。
自社が博物館を建設するとなれば、まさにその”胴元”になるわけです。
地元のトップメーカーであれば、他社との差別化のためにも何としても建設を試みたいと考えるのは不思議ではありません。
また、博物館を実際に運営するとなれば、多額のコストが掛かりますから、その負担に耐えうるぐらいの企業規模であることの証明にもなるでしょう。
もう1つは、いわゆる「茶旅」の進展です。
お茶をキーにした観光客を呼び込もうとすれば、何らかの集客施設が複数必要になってきます。
その点からすると、ある程度の時間滞在でき、天候にも左右されにくい博物館のような施設は、最適です。
前述のように、中国において博物館は日本以上に高尚な場所と捉えられていますから、観光客の知的な好奇心を刺激するスポットでもあり、単なる買い物旅行や食事旅行よりは”文化的”な香りも漂うので、好ましいということもあるでしょう。
さらに、企業が運営する場合は、博物館という文化的施設を持つことは、収益の追求だけで無く、”地域貢献”というイメージにも繋がります。
さまざまな角度から見ても、名茶の博物館の建設が進むのは必然のような気もします。
博物館の例・江南茶文化博物館
一つの例として、江蘇省蘇州市の呉中区にある「江南茶文化博物館」を取り上げてみたいと思います。
この博物館は、洞庭碧螺春の産地にあり、元・国営企業の東山茶廠が運営する施設です。
東山半島の少し小高い、碧螺景区という場所にあり、「碧螺山荘」という名の宿泊施設に併設される形になっています。
2008年にオープンし、建築面積は5600㎡ほどです。
館内には、碧螺春に関する歴史や製法、文化についてのパネルや人形などの展示があります。
展示内容については、わりあいキチンとしており、碧螺春についての歴史や製法などがコンパクトにまとめられています。
この点においては、たいへん良いとは思うのですが、正直、観光地としての魅力はあまり強くはないようです。
規模がさほど大きくないということもありますし、書籍などでも入手可能な情報では?と感じるものも多いからです。
今回、私が訪問したときは、お客どころかスタッフも誰もおらず、館内の電気もついていない・・・という状況でした。
一応、入口は開放されていたので、営業中ではあったようなのですが、どうもこれが普通の状態のようです。
東山茶廠の経営らしく、同社の茶葉を販売する売店などもあったのですが、スタッフ不在で販売している気配はありませんでした。
杭州にある九曲紅梅茶文化展示館もそうなのですが、来館者数がどこも少なく、開館時間なのにスタッフがおらず閉じている・・・ということも往々にしてあるようです。
ここは、開いていただけ、まだ良い方なのかもしれません。
集客には課題も活用法次第か
このように、文化的イメージの高さはあるものの、集客はどこも厳しいようで、開店休業状態のところも多いようです。
とはいえ、昨今の中国のお茶は、お茶そのものよりも”茶文化”という部分で付加価値をつけて行く方向に進んでいます。
そのような観点に立つと、茶文化の集積地としての博物館は、貴重な資産になる可能性もあります。
少なくとも、そのお茶についての基礎的な知識を得る場としては、日本人のお茶の愛好家にとっても、ありがたい場所であることは確かです。
変化の激しい中国の茶業界ですので、開館した企業側がコストパフォーマンスの悪さで閉館することなく、何らかの活用法を見出していってもらいたいと思います。
次回は8月10日の更新を予定しています。